おろしや国酔夢譚
よーし、ゴールデンウィークは井上靖の未読本を読むぞ~と思って『おろしや国酔夢譚』『後白河院』『氷壁』の3冊頑張りました。あらためて大作家の筆力とバリエーションに魅了されました。
鎖国が続く江戸末期、伊勢の船頭 大黒屋光太夫の乗る船は暴風雨によって遭難、8か月後にアリューシャン列島のアムチトカ島に漂着する。原住民とロシアの毛皮商人らに発見されて、命を永らえるが、17人いた仲間は寒さや飢え、病気が原因で次々に亡くなっていく。
ロシアの力を借りて帰国すべく、生き残りたちはオホーツク、ヤクーツク、イルクーツクと極寒の中を決死の移動をする。バタバタ倒れる仲間たち。しかし努力の甲斐あって学者ラックスマンら有力者の助力で首都へ到達し、女王エカチョリーナ2世に謁見、帰国の許可をもらう。
漂流から10年。帰国寸前にも仲間を失い、なんとか生きて帰国することができたのは、光太夫と磯吉のたったふたりだけだった。しかも彼らは鎖国国家の当時の日本では罪人に準ずる扱いを受けその後も長期間、幽閉状態だったといわれる。
「俺たちは、な、磯吉、いま流刑地に居るんだ。そう思えばいい。長いこと方々さまよい歩き、やっとのことで流刑地に辿り着いた。そう思えばいい。な、そうだろう。流刑地に着いた以上、もう何も考えてはいけない。ロシアのことは考えまいぞ、考えまいぞ。」という光太夫。望郷の念の罠。光太夫はロシアにとどまり通訳学校の教師として生きたほうが、ずっと幸せだったのではないかとさえ思える故郷の日本の対応。
今いる場所を故郷と思って生きることができるのが真の国際人ということなのかもしれない。我々日本人のメンタリティというのもいまだ大して変わってはおらず、海外に出ても、いずれは凱旋、故郷に錦を飾る式の思いを抱く人が多い。根底の価値観が変わらない。これが日本人の海外進出のうまくいかない原因であるのだったりして。
大黒屋光太夫の漂流は究極的なノマドライフだ。ノマドがノマドのまま生きることができることの難しさと可能性を描いた大作。
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