ソーシャル・キャピタル入門 - 孤立から絆へ
東日本大震災以降、絆とか思いやりという言葉がメディアに氾濫したが、その中身をちゃんと確認しないと、全体主義や感情論に流されかねない。ひとのつながりは何を生み出すのか、社会科学者たちはずっと研究してきたわけだから、その成果をいま読んでおく必要がある。
著者は社会関係資本(ソーシャルキャピタル)を「心の外部性を伴った信頼・規範・ネットワーク」として定義した。外部性とは「個人や企業などの経済主体の行動が市場を通じないで影響を与えるものであり、便益を与えるものを外部経済、損害を与えるものを外部不経済」という意味。心の外部性というのは、信頼、お互い様の規範、ネットワーク(絆)といったものが果たす役割を指している。
米国ではロバート・D・パットナムが著書『孤独なボウリング』で一人でボウリングをする孤独な人間が増えたというデータからとコミュニティの崩壊を見事に語って見せたが、そういえば日本でも、ひとり消費は確実に増えている。ひとりでカラオケ、ひとりで焼き肉、ひとりで恋愛(ラブプラスとか)...。ひとのつながりを深めることが大きな目的だった行動を、現代人は一人で楽しむようになっている。大震災は、信頼、お互い様の規範、ネットワーク(絆)を再評価するいいきっかけを与えてくれたとはいえるかもしれない。
さまざまな社会学の研究が紹介されている。社会関係資本が高まれば当然、犯罪や暴力が減って安定した地域ができるそうだが、ちょっと興味深いのは「犯罪が多い地域では、人はよく知らない他者とのつながりを放棄し、仲間内だけのつきあいに限定するようになる」という現象。泥棒が多い地域では友人が増えるが、知人が減る。開放的な人づきあいができなくなるそうなのだ。狭く閉じた絆ばかりを温めるのは、排他的なコミュニティをつくってしまうことにもなりかねない。これはおそらく日本というレベルでもいえるのではないだろうか。いま日本人が持つべきは、アジアや世界にまで開いた絆である気がする。この部分を読んで、大震災直後の過度な"絆"キャンペーンに覚えた違和感に対して答えをみた気がした。
家庭内の社会関係資本(家族が仲良いということ)は、子供の学業成績、退学抑制、大学進学率に影響を与える。学級内の社会関係資本は学業成績と退学抑制に影響する。学校内の社会関係資本(教師同士の仲の良さ)も学業成績に影響を与える。などという教育関係者も知っておくべき研究結果もあった。学校選びにも(そしてたぶん会社選びにも)、人間関係を見ることは本質を見ることにつながっているといえそうだあ。
社会関係資本のよいところばかり取り上げる本ではない。ダークサイドとしてしがらみや村八分、反社会的ネットワークなども挙げられている。絆は大切だと素直に思う人も、「絆」に違和感を覚える人も、楽しく、納得しながら読める本だ。
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