父の暦
フランス文化省芸術文化勲章シュヴァリエ章受章ほか海外で評価が高い谷口ジローの漫画。
「郷里に帰る......のではない、いつの日か郷里がそれぞれの心の中に帰って来るのだ」
父親の葬儀で、十数年ぶりに故郷の鳥取へ帰った男が、家族や親せきと再会して、父母の人生に思いを寄せる。そこで、はじめて聞かされた事実に、最後までわだかまりをとくことができなかった父のことを、男はやがて理解する。
鳥取出身で長く故郷へ戻らなかった主人公は、谷口ジローの人生と重なるものだそうで、少年時代の実体験も相当織り込まれているとのこと。描きたいと思った話をじっくりと描いたことで傑作ができあがった。
ほとんど通夜、葬儀、回想のみ。地味な展開と、劇画調ながら淡々とした絵柄。抑えた表情の描写が、感情をあまり表に出すことがない中年男の内面を、逆にリアルに伝えてくる。上質な小説みたいだと評するのは漫画という表現形式に対して失礼なのかもしれないが、しっとりと静かな感動を呼ぶ極上の作品。漫画の表現力を見直した。
・ふらり。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2012/03/post-1620.html
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