喜びはどれほど深い?: 心の根源にあるもの

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・喜びはどれほど深い?: 心の根源にあるもの
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人間の奥深い欲望は適応の結果ではない?
イェール大学心理学部教授ポール・ブルーム著。

食、愛、芸術、スポーツ、想像、苦痛、科学、宗教。さまざまな喜びの根源には、超越的な存在を求める「本質主義」があるという。本質主義とは「事物には、直にとらえることのできない根源的な実体ないしは本来の性質があり、本当に重要なのはその隠れた性質だとする考え方」のこと。

著者らが行った実験では、有名人の着ていたセーターと殺人犯の着ていたセーターを被験者にみせる。もちろん有名人の着ていたセーターの方に高い価値を見出される。しかし、これを殺菌消毒してしまうと価値が下がってしまう。セーターから、なにか大事なものが失われてしまったと被験者は感じたのだ。

それはもちろん汚れや匂いという具体的な何かだけではあるまい。モノの背後に宿った何か、すなわち著者が言う「本質」が人々を惹きつけているのだ。それは中国と日本の「気」、フランスの「エラン・ヴィタール」、マオリの「マナ」、英語の「ライフ・フォース」とも呼ばれる。

科学者の実験では、有名な画家の作品だとわかっている絵画、有名な奏者によるものとわかっている演奏に人々は、純粋に作品自体が持つ影響を超えて、強く惹きつけられた。高価なワインの味に喜びを感じるのは、その味わいと香りのせいではなく、そのワインへの思い入れにもよる部分が大きい。音楽ならCDの完璧な演奏よりも、生の演奏に人は深く感動する。カニバリズムに吐き気をもよおすの理由。人間の心の持つ本質主義こそ、人間の欲望を果てしないものにしているというのだ。

超越的なもの、奥深い実在とのつながりを持つために人間は想像力を使う。想像力は宗教と科学を生みだした。数千人の子供を動員した実験では、子供たちの集団に自然にスーパーパワーを引き出す「儀式」が考案される様子が観察されたという。人間は生来的に超越存在を信じる性質がある。フィクションもまた本質を説明するための道具だ。そして隠れた存在を明らかにするためのもうひとつのアプローチとして思考と実験がある。人間のやることなすことのベースが本質主義なのだ。著者は適応主義で説明できない進化の秘密を明らかにするキーワードだと結論する。

認知心理学や脳科学の最先端をのぞきながら「本質」にたどりつく旅が楽しめる本。

・スーパーセンスーーヒトは生まれつき超科学的な心を持っている
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/02/post-1396.html

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このページは、daiyaが2012年2月28日 23:59に書いたブログ記事です。

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