快感回路---なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか
脳神経科学者が書いた快感回路=脳の報酬系の科学。
セックス、薬物、アルコール、高カロリー食、ギャンブル、ゲーム、学習、エクササイズ、ランナーズハイ、慈善行為、瞑想といった快感回路を作動させる行為が人間にもたらす影響を論じる。
実験用ラットの脳の快楽中枢に電極をつなぎ、ラット自身がレバーを押すと電気刺激が流れるようにした。レバーを押すと快感が走ることを学習したラットは1時間に7000回もレバーを押し続けた。1時間は3600秒であるから約0.5秒に一回、狂ったように押していたわけだ。レバーにたどりつくまでに足に電気ショックを受ける場所を設けても、ラットはそれを踏み越えてレバーの前へ行った。メスのラットは産んだばかりの赤ん坊を放置してレバーへ走った。中には1時間2000回のペースで24時間もレバーを押し続けたラットもいたという。
食べ物やセックスによって快感が引き出されるように進化した我々の身体。脳への直接の電気刺激や薬物作用を使えば快感回路は容易に乗っ取られてしまう。これが悪徳の抗いがたさの原因だ。報酬系の暴走は依存症や異常行動の問題を引き起こす。
だが、もちろん快感回路にはよい側面もあるという。
「現在では脳スキャンにより、生きている脳の中で快感回路が活性化している様子を観察することができるようになった。当然のことながら、この回路は<悪徳>的な刺激で活性化する。オーガズム、甘くて脂肪たっぷりの食べ物、金銭的報酬、ある種の向精神薬などだ。しかし驚くべきことに、<美徳>とされる行動の中にも、同じ効果をもたらすものが多い。趣味のエクササイズ、ある種の瞑想や祈り、社会的な評価を受けること、慈善的な寄付行為さえも、快感回路を活性化しうるのだ。」
進化の最先端にいる人類は、抽象的な心的構成概念によって快感回路を働かせる「スーパーパワー」を手にしたと著者は結論している。つまり、想像力によって生存とは無関係のあらゆることを快感にしてしまうことができるようになったのだ。
人間が、社会的な善に強い快感を感じるように導けば、70億人が総マザーテレサ化することも、ありえるのかもしれない。快感を自在に得るテクノロジーの研究や、快感と依存症を切り離す方法も着々と研究されている。個人が欲望を高等な社会的行動へと昇華する日未来にはくるのかもしれない。著者は最後で快感の未来について依然「政治と商売に左右される悲惨な状況」が続くだろうと悲観的にみている。歴史的に見ても、快楽に関係する儲かるネタは、過剰に税金がかけられたり、恣意的に規制されたり、常に権力に翻弄されてしまうのだ。
これまで宗教や道徳が快感回路の安定化に一役買ってきたわけだが、肥大化した経済原理によって、回路のたがははずれてきている。快感テクノロジーの発展によって人間がラットみたいにならない方法が必要とされている。多様な快感の在り方を知って、それは毒を毒で制するが如く、快感を別のレベルの快感で制御するようなやり方なのではないか、と思った。
・つきはぎだらけの脳と心―脳の進化は、いかに愛、記憶、夢、神をもたらしたのか?
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1072.html
同じ著者の本。
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