水の柩
最近の流行作家の中では道尾 秀介が好きだ。ミステリや猟奇も描くが、根底に温かいものがあって、裏切られない気がするから。これも見事な人間ドラマ作品だった。読後に残る余韻がある。秘めた嘘をめぐる成長と再生の物語。
「これは、私が転校してきてから、毎日毎日ずっと私にひどいことをしてきた人たちへの仕返しの手紙です。誰に、何をされたかを、私はここにみんな書きます。そのとき自分がどんなふうに感じていたかも、みんなここに書きます。まず、私をいじめた人たちの全員の名前です。」
旅館経営の家に育った中学2年生の逸男は平凡な自分の人生から抜け出したいと思っている。同級生の敦子は深刻ないじめにあっているが誰にもそれを告げられないでいる。ある日、逸男は敦子から一緒に小学校の校庭に埋めたタイムカプセルを掘り出してほしいと頼まれる。20年後の自分あてに書いた手紙を入れ替えたいのだという。敦子は復讐のためそこに自分をいじめていた級友の名前を書いていたのだった。
旅館の女将を引退した祖母のいくは、50年前にダムに沈んだ故郷の村に、秘めた思い出を残してきている。このダムへみんなで向かうシーンが途中に何度か挟まれる。逸男と敦子のエピソードとダムへ向かう一行の話とのつながりが最初はわからないのだが、章が進むごとに点と点が結ばれて線でつながっていき、最後は面として立ちあがってくる。少年少女の繊細な心理とサスペンスは直木賞受賞作の「月と蟹」に通じるところがある。
印象的なタイトルと表紙イメージも活きている。かなりおすすめ。
・光媒の花
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1255.html
・月と蟹
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/02/post-1388.html
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