幸せな小国オランダの智慧
小国だが知恵のある国として改めてオランダに学ぶ。現代の蘭学書。
国土の半分以上が水没の可能性のある低い土地(ネーデルラント)であるオランダは、過去千年間、洪水と戦ってきた。多数のダムや堤防を作り、治水事業を推進し、「一万年に一度」の確率の洪水にも備えている。不確実性に備える一方で、経済や社会の成熟も追求する。オランダは近年、世界最高の一時間当たりのGDP、欧州屈指の失業率の低さ、子供の幸福度第一位、世界最大の農業ビジネス国、を実現している。
「オランダは、つねに災害や危機に対する能力を培ってきた。それはたんに防衛的な面だけではなく、イノベーションや持続的な経済運営にもかかわるものになってきた。その「能力」とはどのようなものであろうか。 それは人々の中にある社会的な関係性の豊かさ、ソーシャルキャピタル(social capital=社会関係的知的資本)である。技術力や経済力(カネ)ではない。そして、そのうえで発揮される、個と共同体に共有された問題解決のための思考法だろう。」
オランダは災害で失った土地を回復するため、干拓地住民コミュニティに自発的協力を求めた。オランダの独自の気風である誰でもなんでも言える風土と自由闊達な対話の文化が、災害復興に立ち上がる人々の間に、ポルダーモデルと呼ばれる力強いコミュニティ経済社会システムを生み出した。
「Go Dutch」は割り勘という意味だが、日本の総額頭割りの支払いではない。自分が飲み食いした分量に従って払う。みんなで合理的に協力する文化の象徴として紹介されていたが、この精神がオランダのいたるところに浸透している。
たとえば、オランダの低失業率の原因のひとつはワークシェアリングの成功だ。フルタイム労働とパートタイム労働の時間当たり賃金を同一にして、社会保険の差をなくした。結果として労働時間の適正化と女性の就業率が上昇にとって大幅な所得増を達成できた。政府、企業、労組の連携が取れたのは、階層を超えた協力と対話を大切にするポルダーコミュニティの伝統がしたからだと分析されている。そして、雇用問題に限らず、現場での自律的判断力と、現場をよく知る中央のバランスの取れた連携によりオランダは他国が羨む柔軟な知的弾力性を備えていることが中盤でいくつも紹介されている。
現在と未来のステークホルダーが対話する現代的な場としての「フューチャーセンター」が後半ではクローズアップされている。オランダの公共セクターは組織の未来戦略を考えるための開かれた場を開設して、集合知によって未来に向かうシナリオを生み出している。このフューチャーセンターというコンセプトは欧州の政府や大企業が積極的にいれ、成功例を産んでいるグローバルトレンドだが、著者の紺野教授らが数年前に日本に紹介しており、そろそろこちらでもキーワードになりそうな注目コンセプトである。
もちろんオランダ万歳の本ではない。光と影として、オランダ的思考、社会的思考の負の側面も取り上げている。そのうえでオランダのやり方は経済、社会、文化のバランスの良い発展を実現する人間的資本主義として評価できる部分がある、日本の参考になる部分があるというのが、この本のメッセージだ。私たちはこれまで大国、強国にばかり学ぼうとしてきたが、これからはバランスの取れた国に習うのも実り多そうだ。
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