部屋

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・部屋
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世にも奇妙な幼児言葉の猟奇犯罪小説。ミステリ好きにおすすめ。

「ぼくはママと住んでいる。知っているのはこの部屋とテレビの世界だけ。なぜならぼくはこの部屋で生まれて一度も外に出たことがないから。」

"ぼく"は生まれてから5年間、誘拐されてきた母親とふたりっきりの部屋を出たことがない。幼児の言葉で綴られる一見穏やかな日常生活。天窓以外の窓がない狭い部屋だが、"ぼく"にとって優しいお母さんと水入らずで過ごせる安心の空間。それ以外の世界なんてしらない。不満や不安なんてあるはずもなかった。

「いい?≪テレビ≫に映ってるのは......本当のものの絵なの」
びっくり......び~~くり!そんなびっくりな話、はじめて聞いた。」

しかし、ある日、母親からテレビの中の世界が本当に部屋の外にあること、そして"日よう日のさし入れ"を持ってくる男の正体を知らされて当惑する。自分たちは悪い男に監禁されていたのだ。母親は決死の脱出計画もちかけるが、"ぼく"のほうはといえば慣れた部屋での生活が終わることのほうが気になる。

客観的には異常者による長期監禁事件と脱出計画。緊迫した状況であるが、その異常性を理解していない幼児の好奇心と想像力に満ちたおしゃべりで語られるので、読者はやきもきさせられる。ああ、"ぼく"それって相当ヤバいよと教えてやりたくなる。子供の世界認識がリアル。作者は子供の発達心理学を参考にしているらしい。文体も工夫している。(訳者もそれを巧妙に日本語に翻訳した)。

読む手に本当に汗をかくくらい緊迫する中盤までに続いて、後半では少しずつ外の世界の全体像を認識していく"ぼく"の成長も読みどころ。普通の子供は毎日少しずつ学んでいく過程をわずかな期間で与えられて、世界認識を急速に適応させていく。

こうした長期監禁事件は世界中で起きている。著者がこの事件の発想を得たのはオーストラリアのフリッツル事件(父が娘を24年間監禁し子供を生ませた)だそうだが、日本の事件も参考にしたという。

母親を主人公にしなかったアイデアがまずすばらしい。ストックホルム症候群みたいな大人の異常心理ではなくて、子供の心理や発達過程をテーマに描いたことで、極めてユニークな作品に仕上がっている。この先どうなっちゃうかわからない不安感の倍増と、悲惨な状況が続く長編だが希望を失わずに読める文体に活きている。

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このページは、daiyaが2012年2月 5日 23:59に書いたブログ記事です。

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