アーティストのためのハンドブック 制作につきまとう不安との付き合い方
・アーティストのためのハンドブック 制作につきまとう不安との付き合い方
アーティスト = 美術作品、音楽、文学、写真など作品を制作する人
アーティストとして生きていく不安にどう対処したらいいか?
才能とは何か、自分に才能があるのかどう見極めたらいいか?
優れた作品とは何か?成功とは何か?アイディアと技術とどちらが大切か?
といった問題に対して2人のベテラン・アーティストが答える。全米で20年間読み継がれた古典の翻訳。アーティスト指向の人が読むと、自分の抱えた論点がいっぱい言語化されているのをみるだろう。
この本では一度も創造性という言葉が使われない。著者らはその言葉をファ○クという言葉と同じように忌み嫌っている。アートを職業として生きていくには、当てにならない天才の創造性よりも、継続的に作品を作り続けていく継続性、生産性を大切にしている。まずは質より量なのだ、と。
こんな実験もでてきた。
「陶芸の先生が授業の初日に、教室をふたつのグループに分けると発表しました。そして教室の左側半分の学生は作品の「量」によって、一教室の右側半分の先生には作品の「質」によって、それぞれ成績がつけられることが言い渡されました。」
量グループ:制作した陶器の総重量で成績をつける。数は何点でもOK。重いと高成績。
質グループ:制作するのは1点だけ。1点の質で評価される。
量グループ、質グループで提出されたすべての作品を、質で並べ直したところ、最高と評価された作品はどれも量グループから出たものだったそうだ。量のグループは山のように作品を制作しつづけたことで、失敗から学んだ。質グループは完璧さにこだわり、理屈をこねたりするばかりであった。
作品の量をつくること。作品制作を生活習慣化できているかどうかが重要な問題だと著者は指摘する。。多くの美大出身者にとって卒業制作展が最後の展示会であり、そこで作品制作を止めてしまう。提出期限のような作品を生み出すインセンティブ、評価し合い励まし合う環境がなければ続かない。
「作品制作の細部には、苦労の末に身につけた実践的な制作上の習慣や、何度も頼りにしてきた形式的な反復が宿っています。」。作品とは「生産的な様式をもって生活することから生まれた表層的な表現」なのである、という。
ノらない日でもとりあえず○○から始めるという日常の作品制作の手順、クセをつくるとうまくいくと実践的なアドバイスもある。そして競争のエネルギーを他のアーティストではなく、自分の内側に向けること。「自らの心の声を唄えば、いずれ世界は受け入れるようになり、その本物の声は報われる」などという考えは捨てること。
そして、
「決定的に重要な作品は、制作者を取り囲む歴史の基本構造に直接加わっています。」
世界に評価される作品を生み出し続ける人のためのハンドブックである。
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