曾根崎心中
人形浄瑠璃や歌舞伎で有名な近松門左衛門『曽根崎心中』を角田光代が翻案、初の時代小説として発表した。素晴らしい出来。まずはこれを読んでから浄瑠璃や歌舞伎を見るといい。感情移入しやすくなる。
曽根崎心中は江戸時代の大阪で起きた事件がもとになっている。天満屋の遊女の初と、醤油屋の手代・徳兵衛が出会い、激しい恋に落ちる。徳兵衛は働いて、初を身請けしようとするが、悪い友人に騙されて、すべてを失ってしまう。絶望した二人はあの世で結ばれようと心中をする、という内容。
この小説は主役の初の主観視点で描かれている。背筋に電気が走るような二人の出会い。男に惚れるなど愚かしいと思っていた初が、すべてを投げ出してもいいと思う運命の恋に落ちていく、女心の変化。現代小説の手法で、300年前の作品を現代人の共感を呼ぶ作品として見事につくりかえてしまった。
ふたりが育む愛情や天満屋や女郎友達とのそれなりに温かい関係の明るい部分と、逃亡女郎の陰惨な折檻や、少女時代の厳しかった人間関係、剃刀を使った心中のシーンなど暗くてじめじめしたシーンのコントラストがすごく官能的。
冗長に思える部分がまったくなくて、とてもピュアに短く激しい悲恋を描いている。原作の翻案が大成功している。
・ツリーハウス
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/post-1498.html
角田光代の大傑作長編。
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