カッシアの物語
ディズニーの映画化が決まっているのでトワイライトやハリーポッター的な大ブームを起こすかも。
娯楽性と哲学の両方があってたいへんおもしろいSFファンタジー。
地球温暖化で一度滅びた人類は、同じ過ちを繰り返さないように、すべてをコンピュータと官僚機構が決定する完璧な管理社会をつくりあげている。人々は人生のすべてを決められた通りに生きる代わりに、予期せぬ不幸、病気や事故はなくなった。この世界では人は定められた日に生まれて、定められた相手と結婚し、定められた職業に就いて、やがて子を生み、そして80歳の誕生日に死んでいくのだ。あらゆる行動は監視され過度な自由意志と一切の私有は法律で禁じられている。
決められた法律、役人の命令には絶対に従わねばならない。公共の場所を走ってはいけない。紙に絵や文字を書くことさえ禁じられている。違反行動を繰り返すものは逸脱者、異常者に分類され、重労働を割り当てられたり、野蛮な"外縁州"へ追放される。この世界の住人は必ず青、緑、赤3つの錠剤を携帯することを義務づけられている。青と緑は気持ちを落ち着かせる薬。赤は役人が命じたら飲まねばならない薬。その効果は知らされていない。秩序は人々が権威を信じ、規則を守ることによって保たれている。
結婚相手を知る儀式の季節を迎えた17歳の少女カッシアは、マッチングを管理するシステムの手違いで、一瞬間違った相手の顔写真をみてしまう。その後、本来の相手との幸せな交際期間が始まるが、カッシアの心は、一瞬だけみた男性のことを忘れることができない。少女の心に芽生えた小さな違和感は、やがて選択の自由と、本当の愛を求める苦しい旅のはじまりにつながっていく。
あらかじめ敷かれたレールを歩かされることへの反発の時代でも、最初から個性的であることを求められて困惑する時代でも、若者が真に自由に生きるというのは難しい永遠のテーマだ。ユニークな舞台設定と魅力的なキャラクターがそろっており、3部作の第1作だそうだが、今後の展開に超注目のおもしろ作品。
私を離さないで
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/09/post-449.html
映像化されたディストピア小説としてはカズオ・イシグロの『私を離さないで』と似たようなテーマ性であるが、カッシアのほうが軽やかで希望がある。こちらのほうが流行るのではないか。
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