隠語の民俗学---差別とアイデンティティ
この本の定義によれば「隠語とは、社会集団が集団内部の秘密を保持するなどの目的で使用する、その集団の内部だけにしか通じない言葉である。」。マタギやサンカの民俗研究から、隠語の成り立ち、使用実態、そして、そこに込められた被差別者の心意をあきらかにしていく。隠れキリシタンや警察など、隠さねばならない事情があるところに隠語の文化は発達する。
著者は隠語には
1 所属集団の秘密を保持する機能
2 所属集団の仲間意識連帯意識を強化する機能
3 所属する集団と他の集団とを区別する機能
4 他の集団に対して所属集団を誇示する機能
の4つの機能があると総括している。
権力や公安から隠すとは限らない。マタギの場合には山の神様に隠すために隠語を使うそうである。そういえばネットにも隠語はある。たとえば危ないクスリの取引を掲示板を介して行う場合に、検索にひっかからないように隠語を使う。「鮫島事件」「みかか」とかわかる人だけで楽しもうという隠語もある。すぐにWikipediaに定義が書かれてリンクされてしまうわけだが、ネットでも隠語は日々作られている。
で、面白かったのは、隠語のつくりかた。パターンがあるのだ。
音節省略型 忍び→ノビ 商売→バイ 下足→ゲソ
語音転換型 警察→さつけい 酒一杯→バイイチ 鞄→バンカ
語音付加型 たけ(下駄の隠語)→オタケ
その他には、事物形態類似型、事物形態に因る型、事物色彩に因る型、事物色彩に因る型、事物音響に因る型、事物連想に因る型、文字の構造に因る型、雑型と、10の定型に分類する説が紹介されている。これだけあれば隠語ジェネレーターのプログラムがつくれそうだ。
著者は隠語のルーツを、中世の非人社会にあると考えて、興味深い自説を展開している。犯罪者とそれを取り締まる側が同じ隠語を使っていることに注目して歴史をさかのぼっていく。隠語の闇は深い。
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