ラーメンと愛国
「戦後の日本の社会の変化を捉えるに、ラーメンほどふさわしい材料はない。ラーメンの変化は時代の変化に沿ったものである。本書が試みようとしているのは、そんなラーメンの変遷を追って見た日本の現代史の記録である。」
都市下層民の夜食だった「支邦そば」がわずか100年で日本の「国民食」となるまでの歴史が語られている。戦後のアメリカの小麦輸出戦略があり、安藤百福(日清食品創業者)のパン食文化への抵抗としてのチキンラーメンの発明と大量生産があり、田中角栄の国土開発と「ご当地ラーメン」による地域振興があり。昭和の時代、インスタント、カップラーメンも含めて「ラーメン」という呼称が確立されてマスメディアにものり、当時大量発生した独身の都市生活者を中心に、受験生や機動隊員など幅広い世代に親しまれるようになった。
この本はラーメン現代史を総括するだけではないのが面白い。
ラーメン文化は幾度ものブームによって発展してきたが、著者は80年代以降のラーメン博物館、「TVチャンピオン」、「ガチンコ!ラーメン道」あたりが捏造したラーメン列島神話に異議を唱える。
ご当地ラーメンは地域の個性や特性を反映したものではなく、全国均質のファストフードの流れから出てきた食べ物だという事実。「作務衣」を着るラーメン屋の主人のスタイルは、「日本の伝統」「伝統工芸の職人の出で立ち」を再現しようとして、まったく正統性のない捏造された伝統である、とか。最近の店に目立つ、相田みつお的前向きメッセージを店内に飾る宗教色や、「麺屋武蔵」以降の国粋主義的傾向も指摘されている。
「1990年代末以降、日本のラーメンは、かつてラーメンが持っていた中国的な意匠をはぎ取って、「日本の伝統」らしきフェイクで塗り替えていった。」。伝統の捏造のリアリティショーが現代ラーメンカルチャーの本質にあるという指摘が鋭い。私は常々、ラーメン屋の"ノリ"がよくわからないと思っていたが、すっきり整理された。
ほかにも北海道の札幌ラーメンと九州の博多ラーメンは、中国の北方料理と南方料理が別ルートで伝わったものではないかという仮説。ラーメン二郎におけるコミュニケーション消費論などラーメンを愛好家の興味をひくテーマがいっぱい。
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