澪つくし
うまいなあ。駄作、普通作がない。傑作のみで構成された心霊恐怖短編集(8本収録)。日本的怪異をテーマにしたホラーが好きな人にはとてもお買い得な文庫本だと思う。
人の死をきっかけに見えないものが見えるようになってしまう人たちの話が多い。
一人称の緻密な心理描写にひきこまれていくと、中盤で実は現実に起きていることは違うとわかったり、見えないものが見える自分が正気なのか狂気なのかわからなくなったり。読者の感情移入先の状況が二転三転して、何が本当なのかわからなくなる。そんな巧妙なストーリーテリングが味わえる。短編とは思えないしっかりした物語感。
こういう心霊ホラーって一般的には、霊が出るか出ないかくらいが一番怖くて、出ちゃってからの展開はあんまり怖くないのが普通である。だから出るか出ないかで止めておくホラーって多いのだ。だが、この作家の場合、モロに出しちゃってからも、別の次元での怖さを醸し出していく。
私は家を捨てた女が子供の死をきっかけに里帰りする『彼岸橋』が好きだなあ。古い田舎の村の因習にとらわれて渡れない橋というモチーフが魅力的。それからヨット遊びに興じる都会のヤンエグたちが、海辺で障害を持つ青年と出会う『ジェリーフィッシュ』は、単なるホラーに終わらず現代人の深層心理を描いていていい。そして冒頭の『かっぱタクシー』は、どんでんがえしのどんでんがえしみたいな感じで完璧にヤラレマシタ、降参です。1998年第37回オール讀物推理小説新人賞をとったデビュー作『雨女』も収録されている。表題作の『澪つくし』はその続編。受け継ぐシャーマンの血のもたらす因果が悲しい。
冬だけどホラー。おすすめ。
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