ハーモニー

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・ハーモニー
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いきなり冒頭が感情をコンピュータが読み取り可能にするための

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というマークアップ言語で始まって、わかるひとにだけわかればいいという著者 伊藤計劃の創作意図が伝わってくる。フィリップ・K・ディック賞特別賞を受賞したグローバルでも通用した本物のハードSF。

21世紀後半、医療技術が究極の進化を遂げて、人は病気で死ななくなった。体内に健康状態をモニターするナノロボットWatchMeを注入して、異常があればメディケア機構がはたらいて分子レベルで治してしまう。老朽化した器官は人工臓器ととりかえてしまう。

かつて人類が"大災禍"を経験してからは、健康が人類共通の最高にして最大の価値となり、政府は解体され、WHOが発展した医療合意共同体"生府"機関が世界を統治するようになった。生命主義はあらゆる争いをなくし、人類にはじめて完璧な調和(ハーモニー)をもたらしていた。

完璧なユートピア社会は、ある意味では不自由な社会だ。たとえばこの世界では万人が体内から完全に監視されていてプライバシーといえるものがなくなっている。人類の健康が最大にして唯一の価値であり、その他の価値観は認められない。

そのユートピア的な世界にWatchMeを体内に入れる前の少女3人が登場する。あまりに完璧な世界に対して違和感を覚えた少女たちは抵抗を試みる。完全なハーモニーにおける不協和音としての、自由意志を持った人間の抵抗の物語である。

テクノロジー要素が強調されたハードSFなので、一般読者と言うよりも、SF好きに向けた本である。読み応えたっぷり。

第30回日本SF大賞受賞
「ベストSF2009」第1位
第40回星雲賞日本長編部門受賞

・虐殺器官
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/09/post-1520.html

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このページは、daiyaが2011年11月23日 23:59に書いたブログ記事です。

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