演技と演出
内閣官房参与にもなった劇作家で演出家の平田オリザ氏の本。
コミュニケーションと身体表現のノウハウが詰まっている。
ワークショップで演技者に架空のキャッチボールをさせると、最初は標準的なキャッチボールを演じようとする。ボールや動作のイメージの標準が人によって違うので、なかなかうまくいかない。しかし、"バウンドさせる"、"転がす"、"高く投げ上げる"という非標準的な動作が入ってくると、イメージがいっきに共有されていく。
「標準的な(と本人が思っている)動作を繰り返しても、相手とのイメージの共有ができるとは限らない。実は特殊に見える動作を行った方が、逆にイメージの共有がしやすくなることが多くある」
特殊で特徴的な動きか。オヤジジェスチャーなんてそういう動きかもしれない。
オヤジ★ジェスチャー
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/01/post-914.html
そういえばモノマネの名人がするのもそんな特殊動作だと思う。こういう動作を身につけるにはまず日常の観察力も重要だ。
そして著者の表現教育の重要キーワードの一つが「意識の分散」。
「例えば、長い台詞を言うと、どうも力が入ってしまう、他人から「力みすぎ」「芝居がかっている」と言われがちな人は、長い台詞のどこかに、ちょっと他の動作を入れてみる。それだけでもずいぶんと肩の力が抜けるものです。」
ある単一の行動を繰り返し訓練するより、負荷をかけつつ複雑な動きを複雑なまま習得した方が、より大きな成果が得られるという理論。台詞をいうのも動作のひとつに過ぎず、すべての台詞を他者や環境との関係でとらえていくのが平田オリザ流。
まず動きだけ練習で完璧にして、次に台詞を完璧にして、そして表情を完璧にして、という風に別々に練習するのではなく、いっぺんに全部を完璧に演じる練習をする。これって実はある程度の複雑な行動を習得する上で、普遍的なノウハウかもしれませんね。
なるほどねえということ続出。演技、演出に関心のある人は必読。
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