ビジネスマンのための「行動観察」入門

| | トラックバック(0)

・ビジネスマンのための「行動観察」入門
517POfkdwEL._SL500_AA300_.jpg

大阪ガス行動観察研究所所長 松波晴人氏による実践的なビジネスエスノグラフィー。

企業が顧客のニーズを知るには、アンケートやグループインタビューという一般的な手法がある。

「しかしいま、こうした従来の方法だけでは画期的な製品やサービスを提供するのに限界が見えてきた。それはアンケートやインタビューだけでわかるニーズは、顧客が自分で言語化した「顕在ニーズ」だけだからだ。そこで、実際に顧客の行動(経験)を観察して、まだ顧客自身も言語化できていない「潜在ニーズ」にいち早く気付き、顧客に価値のある「経験」を提供することが重要となってくるのである。」

行動観察では観察、分析、改善の3ステップを踏みなさいという。

この本が抜群に面白いのは、理論ではなくて第2章「これが行動観察だ」である。実際に著者らが実施した企業の行動観察による改善プロジェクトが、ドキュメンタリタッチで紹介されていく。現場で試行錯誤しながら、見事に毎回、洞察をつかんでいく。ドラマみたいだ。1社当たり1作の漫画にしたら面白そう。事例は多岐にわたる。

まずはワーキングマザーの潜在ニーズを知るために、協力者の家に入って数時間の観察をする事例。企業の人間が家庭に入り込めば、行動が行儀よく変わってしまう可能性がある。だから観察者は調査の意図を誠実に伝えた上で、主婦に「晩ご飯を食べていってください」といわれるくらい信頼関係が築くよう心がける。すると主婦の隠れた願望が明らかになっていく。

展示会のイベント会場にでかけてブースを観察し、説明者の立ち位置の変更を提案することで、売り上げが3倍にしたケース。優秀な営業マンと普通の営業マンに同行して、できる営業マンのノウハウを発見するケース。オフィスで働く人々を1日中映像で観察して詳細な行動ログを書き出し、分析するケース。調理場を観察して付加価値の高い作業を判別することで料理人の生産性を飛躍的に高めたケース。工場の労働者の生産性と創造性を高めるケース。そして5000人のお客様の名前を記憶するホテルのドアマンを観察し、驚異的な記憶能力の秘密を探るケースなどなど。

多くのケースでわかりやすいノウハウ抽出と具体的な成果がでていて、現場のコメントもある。潜在的なニーズの発見、インサイト創発につながっている様子がうかがえる。「イノベーションを可能にするのは観察に触発された洞察である。」IDEOのトム・ケリー氏の言葉が引用されているがまさにそのとおりの成功例ばかり。

実際には観察から得られたデータに意味のある構造を見出すには、人類学で言うならクロード・レヴィストロースのような熟練した分析者が必要とされるような気はする。対象に棲みこんで長時間の観察をするには、人材や仕組みづくりに、コストもそれなりにかかるだろうが、やってみる価値がありそうな中身を感じた。対象に棲みこんで洞察を得るプロセスは、観察者自身を成長させる教育効果も高そうだ。

Clip to Evernote

トラックバック(0)

このブログ記事を参照しているブログ一覧: ビジネスマンのための「行動観察」入門

このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/3409

このブログ記事について

このページは、daiyaが2011年11月11日 23:59に書いたブログ記事です。

ひとつ前のブログ記事は「スーパーマリオ3Dランド」です。

次のブログ記事は「期間限定で50ギガバイト無料になるオンラインストレージ Box.net のiPhoneアプリ」です。

最近のコンテンツはインデックスページで見られます。過去に書かれたものはアーカイブのページで見られます。

Powered by Movable Type 4.1