ウェブ×ソーシャル×アメリカ <全球時代>の構想力
ウェブとはなにか。果てしない議論になりそうな大きなテーマを「ソーシャル」と「アメリカ」を軸に整理していく。完成度が高すぎるウェブ論。あまりに見事な総括に、逆に粗を探したくなって読み返してみるが、やっぱりよく書けているなあ、腑に落ちるなあと感心してしまう。
この本のカバーするキーワードは多数ある。AppleとGoogleとFacebook、フリーミアム、ネットワーク科学、Web2.0、ブロゴスフィア、複雑系、アーキテクチャ、スチュアート・ブランド、サイバネティクス、ハッカー、シリコンバレー、エンゲルバート、カウンターカルチャー、ベイトソン、ゲーム理論、自由、ザッカーバーグと『アエネーイス』、グローバルビレッジ、デモクラシー、エンタプライズ、イノベーション、クレアトゥーラ、全球...。出自の異なる多様なキーワードが、ウェブを生みだしたアメリカのハイテク産業の歴史へと結び付けられていく。
カウンターカルチャーがPC/ウェブを作ったというよく聞く仮説に対して、著者は、いやそれをつくったのは、アメリカの宇宙開発への夢であるという。PCもウェブもその夢の副産物に過ぎないとし、60年代ヒッピー文化という枠組みを超えて、より大きな歴史のベクトルの中に、PCとウェブ、シリコンバレーとインターネットを位置づけていく。
GoogleとFacebook、そしてAppleを真善美と割り振った著者の見識が、今後の時勢を読むのに参考になった。それぞれの企業が何をしそうか、なにをしないかを予想する指針になるだろう。
「ところで、いささか言葉遊びになるが、真善美という三つの基本的な価値になぞらえれば、科学的合理性を追求するGoogleは「真」、ユーザーという人間的なインターフェイスを通じて共同体の構築を勧めるFacebookは「善」、触角を通じた自在性を売りにすることで、ヒューマンタッチを具体化させたAppleは「美」、という具合にそれぞれ基本的な価値を実現していると見ることもできるだろう。」
ウェブのサービスをつくるうえで、真善美のどれを追求していくか、という問題設定もしてみると、未来イメージや競争戦略の展望がみえてきそうだ。
そしてとても響いたのはここ。
「つまり、ネットワーク科学には、純粋に数理的でシミュレーション的である「複雑系」や「非線形科学」の系列と、レヴィ・ストロース的な「人類学」的な系列の二つの流れがあるということになる。ネットワーク科学の成果は、ウェブ企業であればどこでも応用を考えていて、GoogleやFacebookはもちろんそうした企業に含まれる。そして、あえてその特徴を割り当てれば、Googleは前者の複雑系科学的なシミュレーション志向であり、Facebookはソーシャル・グラフを重視するところから後者のレヴィ・ストロース的な人類学的志向であるといってもいいだろう。」
機械と人間の融合がウェブである。融合された状態が当たり前になって、そこからやがて、複雑系的数理でもレヴィ・ストロース的エスノグラフィでもない、第三のあたらしい科学の研究領域が現れるのではないか。
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