集落の教え100
建築家 原広司氏が世界の集落調査を通して空間デザインに関する教えを100のフレーズと写真でまとめた建築系学生の間では定番の書。
フィールド観察からデザインパターンとでもいえそうな知を抽出している。
たとえば世界の多様な集落があるが、それらには自然発生的につくられているようでありながら、設計図や設計意図が感じられる部分がある。ヨーロッパでもアジアでもアフリカでも多くの集落では、何十、何百の住居が密集していて、どれも同じようなつくりであるが、よくみると少しずつ違うのだ。基本となる形式はあっても、現代都市の建売住宅みたいにまったく同じではない。
著者はこうした特徴に[2] 「同じもの 同じものはつくるな 同じものになろうとするものは、すべて変形せよ」というフレーズにまとめた。そして実例を示す集落の写真と1ページ分の詳しい解説をつけた。「(多くの場合、基本形は概念的にしか指し示すことはできない。)、集落に現象している諸要素は、すべて基本形の<変形>であって、それぞれは類似していると同時に差異をも指摘できるという性質を持っている。」。印象的なフレーズだけでなく、その中身をちゃんと言語化、精緻化しているのがすばらしい。
87年の発表当時 大江健三郎はこの教えに啓発されて『新しい小説家のために』という作品を執筆したそうだが、読んだら何か言いたくなる啓発的な教えばかりだ。建築以外の分野でもきっと応用が効きそうな知恵ばかりなのだ。
たとえば私が気になった教えをフレーズ部分だけ5つピックアップしてみる。
[11] 大きな構想
大きな仕掛けは、大きな構想を支える。
大きな仕掛けは、小さな部分によって支えられる。
大きな構想が、そのまま現実されれば、退屈な集落になる。
[23] 逃亡者
逃亡者たちは、楽園をつくる。撤退せよ。
[34] 乾燥
乾燥している状態は、知恵をいきいきとさせる。
[71] 遠くから、近くから
遠くからは、辺りに溶けこむ姿をもて。
近くからは、辺りから際立つ姿をもて。
[76] 縮小
すべてのものは、拡大するより、縮小するほうが好ましい。
すべてのものを、やや小さめにつくれ。
集落の教えは人間が織りなす文化全般についての教えのような気がしてくる。そしてそれは合理的で均質的な現代の都市計画の教えとは対極をなすものだ。人間的社会の再構築と復興にむけていま読みなおされても価値がある本だと思う。
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