風の中のマリア
昆虫小説というユニークな作品。
主人公はオオスズメバチのマリア。
巨大な巣には1匹の女王蜂と何千匹のワーカー蜂がいる。社会性昆虫であるオオスズメバチのワーカーに生まれたマリアは、自分のために生きることはない。幼虫のえさを狩り、外敵から巣を守る戦士として、30日間の短い人生を必死に生きる。
戦士は日に何度も狩りに出る。他の昆虫をみつけては噛みついて殺し、肉団子状にして巣に持ち帰る。自分で食べるのではなく、幼虫にえさとして与える。その代わり幼虫からは養分のある液を返してもらう。
オオスズメバチのワーカーはすべて雌だが、女王蜂が生存している限り、オスとつがいになったり、繁殖することはなく、後から生まれてくる妹たちを育てることに一生を費やす。
与えられた役割を果たすことだけを運命づけられた存在だが、マリアはときどき自分が何のために生きているのかを自問するようになる。恋愛することも子供を産むこともない自分にはどんな意味があるのか。マリアの姿は社会の制度やしがらみのなかで生きる人間とどこか似ている。
昆虫の主人公に感情移入させることに成功していると同時に科学読み物としても成立するくらいきちんとハチの生態を描写している。雄のハチはどこにいるのか?、女王蜂はどうやって生まれるのか?、巣はどう始まってどう終わるのか?マリアの一生とハチのコロニーのライフサイクル全体が、実に巧く物語に組み込まれている。子供の学習にもよさそう。
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