虐殺器官
日本が世界に誇れるSF文学作家 伊藤計劃の代表作。
近未来の地球。核爆弾テロによってサラエボが消失して以来、先進国はテクノロジーによる徹底した市民監視システムによって安全な社会を維持している。その一方、民族紛争や宗教問題を抱える発展途上国では、内戦や大量虐殺が増えている。主人公の米軍大尉クラヴィス・シェパードは、情報軍特殊検索群i分遣隊に所属している。米国の敵対勢力の独裁者や不穏分子を暗殺するのが仕事である。
クラヴィスにジョン・ポールという謎の人物の暗殺指令がくだされる。言語学者ジョン・ポールは途上国の大量虐殺事件が起きる場所に必ず現れる死のエージェントだが、不思議なことに監視システムにその行動のログが記録されていない。虐殺実験への関与の詳細も不明。クラヴィスは少ない情報を頼りに、愛人とされる女性に接触するためにチェコへと潜入する。
グレッグ・イーガン系の正当派ハードSF。日本人SF作家とは思えない世界水準の物語構想力に圧倒される。監視社会、生命倫理、民主主義、現代世界の大きな問題意識のもとで、ユニークな想像力を働かせている。SF文学であると同時に、現代思想のひとつの体系を提示しているといっても過言ではあるまい。圧倒的。
「ゼロ年代最高のフィクション」と評される本作を書いた伊藤 計劃のプロフィール。
1974年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒。2007年、『虐殺器官』で作家デビュー。「ベストSF2007」「ゼロ年代ベストSF」第1位に輝いた。2008年、人気ゲームのノベライズ『メタルギアソリッドガンズオブザパトリオット』に続き、オリジナル長篇第2作となる『ハーモニー』を刊行。同書は第30回日本SF大賞のほか、「ベストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門を受賞した。2009年没。
34歳でがんに倒れた作家の活動期間はたった3年間しかなかった。これを含めて長編は3作しかない。なんとも残念。
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