つなみ―THE BIG WAVE
家族や家を津波に奪われながらも、海に生きることを決して諦めない日本の漁民の生き方を、ノーベル賞作家のパールバックが力強く描いた傑作。1947年初版。新版からついた黒井健のイラストもいい。
丘の上に住む農家の少年キノの家に、津波で家も家族も失った友人のジヤが身を寄せる。キノの両親も村人も孤児になったジヤを温かく見守り、同年代のジヤとキノを兄弟のように育てた。復興していく村で同じように生きていた二人だが、大人になってもジヤは海の民としての生き方を忘れることができない。
なぜ人は津波があった場所に戻るのか。
効率や安全だけを考えるなら、戻らない方が合理的なはずだ。三陸海岸も歴史的に何度も津波にすべてを奪われた土地だ。今回の津波でまた対策を立てるのだろうが、これまでも高い堤防や避難訓練など、充分といえる備えがあった。でも駄目だった。これから、どんなに堤防を築いても、また想像を絶する高さの津波がきて、間に合わない可能性がある、だろう。
しかし、それでも人々はその場所に戻って再建を続けるのだろう。私は漁民ではないが、パールバックのこの短編を読んで、理屈ではなく、情緒的に、よくわかった気がする。危険があろうと、自分の人生があると思う場所へ、人が戻るのは当たり前のことなのだ。ジヤは結婚して構えた新居で海に向かって窓を開く。すべてを奪った、そして、多くを与えてくれる海をじっくりと見るために。
殺人や強盗のような犯罪発生率が高い都市に住むのとなにが違うのだろう。警察官や消防士のように危険を伴う職業に就くのとなにが違うのだろう。100年に一度死ぬかもしれないリスクがある?だからなんだ?、大切なものがある場所に人が住むことは人間的で、合理的で当たり前のことだと思わせる、そんな作品である。
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