Sink
日常と非日常の切断がテーマの漫画作品。
作者も版元も、よくこの難しい作品を出版したなと感心しながら読んだ。漫画というのはかなり商業色の強い表現形態であって、普通は一般の読者が容易に理解でき、そして楽しめることを前提に描かれているものだ。なのにこの二巻組の大作はまったく読者の理解を突き放し、娯楽性も投げ捨てて、わかるひとにわかればいいを貫いてしまっている。娯楽のエログロナンセンス作品が勢い余って前衛的になってしまったというパターンではなくて、最初からこの方向性で描いたらしいから、相当にキレている取り組みだ。
登場人物たちを取り巻く日常の中に少しずつ非日常の異質さが現れる。それは最初は妙に手や首が長くて、狂ったデッサンみたいな人物だったり、スパッと鋭利な刃物で切られた物だったり、何度も同じことが繰り返される錯覚だったりする。そうした非日常がやがて日常を決定的に侵し始めて世界は破綻して行く。
わかるひとにはわかる漫画が好きというひとにはおすすめの奇書だ。作者にも少しは良識が残っていたのか、前衛とは言っても一応、オチはあるので、ある程度安心して読んでいいのだが、根本的には理解を拒む、狂気に満ちた禍々しい作品。
いがらしみきおは不気味だ。『ぼのぼの』の人なのに。こんなのもかけるのか。
・【アイ】 第1集
http://www.ringolab.com/note/daiya/2011/08/i-1-1.html
いがらしみきおを見直すきっかけの一冊。
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