国家は破綻する――金融危機の800年
過去800年間の各国の記録を精査して国家の金融危機(ソブリン・リスク、デフォルト、銀行危機)を分析した研究書。
長い歴史のスパンで見ると国家はひんぱんに破綻している。公的対外債務のデフォルト、国内債務のデフォルト、そして銀行危機、インフレ、通貨暴落。この本にあるデータをみれば国家は破綻しないなどというのは幻想であることがわかる。世界の半分近い国がデフォルト中ということが歴史上何度も起きているのだ。デフォルト回数の記録保持者はスペインだが、世界のほぼすべての国が新興市場国だったころに一度は対外債務のデフォルトをしている。
国内債務のデフォルトよりも、公的対外債務のデフォルトが起きやすい。これは「国がデフォルトを起こす主な原因は、返済能力ではなく返済の意思である」という理由で説明できるそうだ。債権国が債務国を武力で脅して回収するという発想は費用便益分析的に考えて、現実的ではない。だから債務国にしてみれば、いろいろデメリットはあるものの、ある程度の体力を残した状態でデフォルトしてしまい、交渉で債務の一部不履行やリスケジューリングへと持ち込むことにも合理性がある。
統計的にみると国内債務の方がデフォルトの許容限界が高い。この場合、打ち出の小づちとして政府は、通貨発行ができるが制御不能のインフレをまねく可能性がある。事実上のデフォルトがインフレという形をとることもある。
「なぜ政府は、インフレで問題を解決できるときに、わざわざ国内債務の返済を拒否するのだろうか。言うまでもなく一つの答えは、インフレがとくに銀行システムと金融部門に歪みを生じさせるから、というものである。インフレという選択肢があっても、支払い拒絶の方がましであり、少なくともコストは小さいと政府が判断することもある。」
対外、国内どちらにせよ、国がデフォルトを起こす主な原因は、返済能力ではなく返済の意思であるということになる。むろん一人前の国家はデフォルトを選ばない。
「高所得の先進国の多くは1800年以来、対外債務のデフォルトを起こしていない。
現在の先進国は公的債務のひんぱんなデフォルトや年率20%以上の高インフレからは卒業したが、銀行危機から卒業したとは言い難い。」
後半では、先進国で発生しやすいのは銀行危機であり、いかにそれが一般的でよく起きるかを数字で示している。つまり、国家と言うのは先進国、高所得国になっても破綻するときには破綻するものなのである。構造改革も、技術革新も、よい政策も、健全なファンダメンタルズも、国家の破綻を完全に防ぐことはできない。しかし、専門家はしばしば「今回は違う」シンドロームに陥って、状況を見誤ってきたというのもこの本が明らかにする歴史の一面だ。
著者は公的対外債務危機、公的国内債務危機、銀行危機、通貨暴落、インフレ急騰の5種類の危機が、その年に起きているかどうかで国家の金融危機度を測る総合指数(BCDI指数)を開発した。1種類が起きると1、5種類ならば最も深刻な5になる。
2007年の米国のサブプライムショックとそれに続く「第二次大収縮」は、第二次世界大戦以降で最悪の深刻度を持つものであったということがわかる。国家はしばしば破綻するものだが、歴史的に見てもあれは相当やばかったのだよ、といいたいらしい。
そして今日は2011年の8月1日である。
米国はどうやら今回の債務危機を回避できるらしい。この本の過去のデータ的にも米国がこの状況でデフォルトする確率は低そうだし、「国がデフォルトを起こす主な原因は、返済能力ではなく返済の意思である」なのであるから、当然といえば当然か。
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