ヴァレンタインズ
面白くて、読みやすくて、上質な味わいの外国文学。とてもおすすめできる作品。
現代アイスランド文学の旗手オラフ オラフソンの第一短編集。2006年度アイスランド文学賞を受賞、O・ヘンリー賞受賞作を含む。
短編作品が「一月」から「十二月」まで12編収録されている。夫婦や恋人たちに破滅が訪れるような瞬間という切り口で、少し意地悪に人生の機微をとらえる。どんなものか、たとえていうなら、恋人とのベッドの中で違う異性の名前を呼んでしまった気まずい瞬間みたいなものが、12個並んでいると思ってもらえればいい。
人の不幸は蜜の味というけれども、12種類もの不都合な人間関係がカタログ商品みたいに次々に出されると、なんだか可笑しくなってしまう。ヤバイのは少なくとも読者の私じゃないのだからね。人生の闇がテーマでありながら、ほほえましい感じがする、絶妙な仕上がり。
抑制が効いた文体で、そこはかとないユーモアを感じる。日本人好みの作家だと思う。そしてこの作家が面白いのは、実はビジネスの世界での相当の実力者だということ。著者はソニー・インタラクティブ・エンタテイメント初代社長をつとめ、プレイステーションの世界展開の立役者だそうだ。今はアメリカのタイムワーナー副社長をつとめる。だが作品は経営小説的要素やプラグマティズムの気配をまったく感じさせない。
夏にホテルのプールサイドで読書するのにいいとおもう。
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