自由の牢獄
ミヒャエル・エンデ晩年の傑作寓話短編集。
標題の『自由の牢獄』
若者は悪魔によって神の意思が届かない巨大な円蓋の部屋に閉じ込められる。
そこには111の扉がある。それは地獄に続く扉かもしれないし、神の世界に戻る扉かもしれない。「ひとつの扉を開けば、その刹那に他の扉はすべて永遠に閉じ込められるのだ。やり直しはないぞ。よく選ぶがよい!」と悪魔の声はいう。
部屋は快適でいつの間にか食事や飲み物が現れる。若者は完全な選択の自由を与えられながら、無数の選択肢の中の一つを自分の運命として選びとることができない。やがて若者は、眠って起きるたびに、目の前の扉の数が減っていくことに気がついた。
自由意思とは何か、神の全能性とは何かを象徴的に描写した印象深い作品。これは読者の視点によって幅広く読みとれそうなので、読書会のネタによさそう。
『遠い旅路の目的地』もよかった。
莫大な遺産を相続した孤独な若者は、なんでも手に入れることができる境遇にありながら、故郷というものを持っていなかった。世界中を旅行して故郷を探したが見つからない。ある日、見つけた絵画の中の風景に、若者はどうしようもない郷愁を感じる。若者は、持てる財力と情熱のすべてをかけて、この世に存在しない風景を探し求め、やがて見つけた理想郷の中へと消えていく。
人生において、探すということの意味を読者に問う内容。
ミヒャエル・エンデの、幻想的な寓話と現代的な哲学解釈が光る。眠る前に読むと眠れない。
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