会社は変われる! ドコモ1000日の挑戦
日本コカ・コーラ会長の魚谷雅彦氏は2007年7月から2010年6月まで、NTTドコモの特別顧問に就任して、ロゴ変更を含むマーケティングの変革を担うコーポレート・ブランディング本部を率いた。この結果、競合他社に惨敗していた毎年恒例の顧客満足度評価において、全項目で向上、「顧客対応力」「電話機」「通信品質・エリア」「非音声機能・サービス」では大差で1位となった。
たしかにドコモのイメージはここ数年間で個人的にも変わったなと感じている。かつては「料金が高くてお役所体質の会社」のイメージだったが、今は「高品質なインフラを提供する本命」という印象が強い。改善されただけでなくてポジショニングもしっかりしたとも感じている。その理由がこの本にあるようなマーケティング変革の成果だったのだろう。
特別顧問に就任して役員を前に魚谷氏はスピーチをした。
「ドコモというのは、日本を代表する宝物のような会社です。ですから、私はドコモに、もっと世界に出て行ける会社になっていただきたいと願っています。 そもそも、みなさんは国体で競争している場合ではありません。オリンピックで金メダルを目指すべきなのです。」
まずはブランドを強くすること。お客様視点を徹底することをマーケティング戦略の基軸に据えた。通信業界の外側からやってきた著者は、消費者視点で携帯電話業界を見直し、業界の常識でも社会の非常識があることを指摘する。たとえば、買い替えに2万5000円かかるのに、他社からの乗り換えには1円しかかからない。お得意さんより一見を優遇するお店なんてありえませんよ、従来の囲い込み戦略は会社の事情、組織の論理に過ぎないのです、と。
顧客満足(CS)からカスタマー・エンゲージメント(CE)へ。満足したらそれで終わってしまう、新たな関係の構築までを視野に入れろ。48時間お客様対応(電波状況が悪いという問い合わせ電話から48時間以内に現地を訪問して対応する)、1年後の電池パック無料交換、紛失時の無料ロックなど、それまでのドコモの発想では無茶と思われた施策を次々に実現させていく。
大組織を動かした大きな要因にはまず組織内部の意識を変えるインターナル・マーケティングがあった。まずはロゴを変え、ドコモ社員やショップ店員に、社長や魚谷氏が直接語りかけた。幹部向け研修では「10年後に、ドコモという会社が世間から、社会から、どんな会社だと思われているか、新聞の見出しでつくってみましょう」などという参加型ワークショップで意識を変えさせていく。
ドコモの顧客は5300万人を超える。ターゲットは日本国民全体といっても過言ではない。マーケティングは困難を極めるが、そこで同じく国民全体が顧客のコカ・コーラのマーケティング変革の経験が活かされる。
幅広い年代に向けて膨大な調査を行った結果から、
・【ケータイをフルに使いこなす】←→【基本機能しか使わない】
・【感性の表現アクセサリー】←→【実用的なツール】
という2つの軸を持つ平面上に、ITプロ指向のPRO、インテリジェント・スマート指向のSMART、自己表現・トレンド指向のPRIME、おしゃれメジャー指向のSTYLEという4つのグループをまとめた。
このセグメンテーションマップで製品ラインナップを打ち出していくことで、作り手はどんなお客様に使ってほしいかを明確にし、お客様は「この端末はわたしに向けられてつくられているんだ」と実感できる。それまでの「70」シリーズ、「90シリーズ」のような企業側の都合によるシリーズと比べて格段に魅力的で選びやすくなった。
巨大な変革プロジェクトの中で、どんな会議が行われたのか、どんな声がプロセスを前に進めていったのかが具体的に紹介されており前著「こころを動かすマーケティング」と同様に、とてもわかりやすい本だ。
コーポレート・ブランディング本部の変革には、奇をてらった作戦はなくて、マーケティングの基本に忠実なものばかりという印象を受けた。ひきずるものを持つ大組織に基本を守らせることがいかに大変かがよくわかった。現場を動かすために、経営者の言葉や態度がどうあるべきかもよく学べた。
・こころを動かすマーケティング―コカ・コーラのブランド価値はこうしてつくられる
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/11/post-1109.html
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