食卓にあがった放射能
チェルノブイリ原発の事故に際して書かれた食物の放射能汚染に関するガイドのアップデート新装版。原発事故が起きたら食に対してどのように対応すればいいのか。
著者は高木 仁三郎(タカギ ジンザブロウ)
「1938年生まれ。理学博士。核化学専攻。原子力の研究所、東京大学原子核研究所助手、東京都立大学理学部助教授、マックス・プランク研究所研究員等を経て、1975年「原子力資料情報室」の設立に参加。1997年には、もうひとつのノーベル賞と呼ばれる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞。2000年 10月8日に亡くなるまで、脱原発を貫いた市民科学者。」
放射線がどの程度人体に悪い影響を及ぼすのかは、専門家の間でも大きく違う。この本でも紹介されているが、権威ある機関や専門の科学者の出した数字を並べると、
■ガン死の危険率(1万人・シーベルトあたりのガン死数)
国際放射線防護委員会(ICRP) 100
BEIR III 報告 77~226
ロートプラットの評価 800
ゴフマンの評価 3700
放射線影響研究所(1998) 1300
ということで最小と最大では40倍くらいの大きな開きがあるのだ。そして小さな方の数字をベースにして、現在の日本の基準値は設定されているということは覚えておかないといけない。
「ヨウ素-131に関して、日本の防災対策で採用されている制限値は、牛乳1リットルあたり6000ピコキュリー(約222ベクレル)、野菜1キログラムあたり20万ピコキュリー(約7400ベクレル)、飲料水では3000ピコキュリー(約111ベクレル)ときわめて高い(90ページ参照)。 西ドイツ連邦政府がチェルノブイリ事故直後採用したヨウ素-131の制限値は、野菜1キログラム当たり250ベクレル、牛乳1リットルあたり500ベクレル、西ドイツのヘッセン州では、牛乳1リットルあたり20ベクレルを制限値として採用している。」
国際的にみると日本の防災対策で採用されている制限値は高めなのだ。しかも外部被曝については1989年に一般人の年間許容被曝線量を5ミリシーベルトから1ミリシーベルトへと引き下げたのに、なぜか内部被曝の基準値は370ベクレル/キロに据え置いた。本来はこの基準値も5分の1にしないのはおかしいと著者は訴えている。
チェルノブイリ事故の際には食については自衛することが重要だという結論が書かれている。「興味深いのは、食生活に気をつけた人(汚染の高いものを避けた人)と食生活に気をつかわなかった人の汚染度の差が歴然としていることだ。」として西ドイツのハンブルクでの調査結果が示されている。
じゃあ、どういう食べ物に注意すべきなのか、一覧表や対処法が詳細に書かれている。
チェルノブイリ事故の際に、放射能汚染の検査でひっかかった食物は香辛料・ハーブ・きのこがワースト3、そしてヘーゼルナッツ。きのことナッツはセシウムを取り込みやすい。香辛料やハーブは取り込みやすいのに加えて乾燥、濃縮させるから高い汚染値になるという。
動物では最も高く放射能汚染されたのは淡水の魚類であった。スウェーデンの湖に棲むスズキ科の淡水魚バーチからは、チェルノブイリ事故から2年後に最高82000ベクレル/キロが検出されている。湖は雨によって運ばれるセシウムの吹き溜まりになっていた。
チェルノブイリ事故では国境を越えて被害が及んだ。1300キロを超えた地域でも高汚染地域があったくらいだ。当時のヨーロッパは大混乱に陥った。
「国によって、また同じ国内でも地域により汚染状況は大きく異なったが、基準値の設定をめぐる各国政府の放射能への対応は、それぞれの国の体制や原子力政策に対する姿勢が反映された。しかし、ほとんどどの国にも共通していたことは、「人体への影響はたいしたことはない」と国民の不安と混乱をおさえるのに懸命だったことだ。」
蓄積しやすい食材、気をつけなければならない食材はこの本に一覧で紹介されている。最近は食材の宅配サービスなどでは独自に放射線を計測して出荷している業者もある。健康被害も風評被害も最小限にするには、正しい情報をベースに食に対して行動することだ。「危ない」、「いや大丈夫」。書き手の立場によって、現状への判断はどちらもありえるが、専門家の書いた本を複数読んで、消費者が正しいと思うものを選び、自己責任で判断するしかない。
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