ふがいない僕は空を見た

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不倫主婦の求めに応じてコスプレ・セックスに励む高校生斉藤卓巳の話で始まって、卓巳をおいかける女子高生の視点、不妊に悩む不倫主婦の視点、高校の先生の視点、アルバイト先の先輩の視点など、卓巳の周辺をめぐる話でぐるっと一周する構成。第一話の『ミクマリ』が第8回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞を受賞して、二話以降が続編へ発展していったという経緯を持つ連作短編集。

登場人物たちは変態性欲だったり、不妊症だったり、貧乏だったり、複雑な家庭事情を持っていたりで、それぞれの葛藤をかかえている。危ういバランスの上で平穏な日常生活が営まれている。そこへ卓巳と主婦の行為が暴露されて波紋が広がっていくことでドラマが生じる。

登場人物たちは心に闇の部分を持っているけれども、それぞれが精いっぱいに生きていて、共感できる部分が多い。きれいごとだけじゃないからリアリティがある。普通って何だろうか。メディアが正常と異常を分けているだけで、現実世界では、誰しも少し異常で歪んでいるのが普通なのじゃないか。

ちょっぴり、情けない、みっともない、ふがいないのが本当の人生。

業の深い人間のドラマが、自然分娩を勧める助産院の周辺で起きるという設定もまた、力強い生の肯定へとつながっていく。過激な展開が多い割に、まっとうに励まされたような温かい読後感。

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このページは、daiyaが2011年5月18日 23:59に書いたブログ記事です。

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