内部被曝の脅威
広島の被ばく患者の救援にあたってきた医師と、ドキュメンタリー映画『ヒバクシャ』を制作したノンフィクション作家が共著で内部被ばくの脅威の実相に迫る。六十年間の臨床例と国内外の放射線医学の研究データを用いて、微量な放射線は自然界にも存在するから被ばくしても大丈夫という神話を覆そうとする内容。
【これ以下は安全といえるしきい値はない】
【微量の方が危ない】
【自然放射線と人工放射線は違う】
などの論点がある。
基準値以下なら安全とする政府見解と違うので、本当だとすれば恐ろしい内容だ。
著者は放射線にこれ以下なら無害というしきい値はない、という。自然と人工の放射線は身体への影響が異なる。0.01から0.1グレイの最小線量でさえ、生物組織に有害であることを示す研究結果がいくつも存在する。長時間、低線量放射線を照射する方が、高放射線を瞬間放射するよりたやすく細胞膜を破壊するという「ペトカワ効果」を根拠に、微量の放射線の内部被曝がいかに危険であるかを解説する。
放射線分子は体液中の酸素分子と衝突し、電気を帯びた毒性の高い活性酸素(フリーラジカル)を作り出す。フリーラジカルは数が多いとぶつかり合って、もとの酸素分子にもどって非活性化するが、数が少ないほど暴れて細胞を損傷する。微量のときのほうが危険だというのだ。
逆に微量は身体に良いというホルミシス効果という仮説もある。弱い放射線を微量受けることで細胞が刺激を受け細胞が活性化し、新陳代謝が向上し、免疫と自然治癒力が高まるというもの。これが本当だとよいのだが、
また著者、人工放射線は体内の特定器官に集中、濃縮される性質を持つから、影響が違うと主張している。たとえばヨウ素131は甲状腺に蓄積され、ストロンチウム90は骨に沈着する。セシウム137は骨、肝臓、腎臓、肺、筋肉に沈着する。諸外国の方が日常的な放射線は量が多いのだから、日本で少しくらい増えても大丈夫という解釈はできなくなるのかもしれない。
長期的被ばくでは、年間1ミリシーベルトの被ばくにより、1万人から10万人に1人の割合で癌にかかる。三十代の男性では2000人に1人、喫煙者なら400人に1人。この前提で原発や原子力兵器の産業の影響を算定すると、国際放射線防護委員会(ICRP)は、1945年以降で、被ばくによる癌の死亡者は世界で117万人と報告している。これに対して欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、内部被ばくの影響を加えて計算した結果、死亡者数を6160万人と発表している。
この本が根拠のひとつとして取り上げていたこちらの本も読んだ。
・低線量内部被曝の脅威―原子炉周辺の健康破壊と疫学的立証の記録
アメリカでは1950年~1989年 全国で白人女性の乳がん死亡率が2倍になっている。
全米3053郡で乳がん死亡者数を調査
原子炉から
160キロ外 死亡者は減少か横ばい
160キロ内 死亡者が増加 明らかな相関
原発通常運転時の大気や海水への放射線放出が原因だとする論文。米国の原子炉から100マイル以内の郡では、安全な放射線のレベルのはずなのに、乳癌死亡者数が明らかに増加しているという疫学的調査である。このグールドという科学者の論文に対してはいろいろと異論も多そうなのだが、現在の日本の状況では気になる情報。日本の場合は日本全土が原発100マイルにだいたいおさまってしまうため、計測が難しいわけだが、日本でもがんは原子力発電の開始以降倍増している。
チェルノブイリ原発の事故では、小児白血病が、ギリシアで160%、ドイツで48%、イギリスで200%以上も増加しているそうだ。微量の放射線を外部、内部で、長期的に被曝した場合の人体影響には、まだ未知の部分があることは多くの科学者が認めている。福島原発からの放射線量は減ってきているが、子供がいる家は、まだまだ慎重に行動した方がよいと思う。
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