オリクスとクレイク
ちょうど原発が水素爆発した時期にひとりで怯えながら読んでいた傑作SF小説。バイオハザードが起きた研究所と、福島第一原発がだぶって見えてくるのは仕方がないが、ハイレベルの作品なので、そろそろ、おすすめ。
エリート科学者たちが研究開発したバイオテクノロジーが暴走し、世界が破滅。人類最後の一人になってしまった主人公ジミーが、遺伝子操作で生まれた奇妙な生物に囲まれながら、そこに至るまでの破綻の道のりを回顧する。『侍女の物語』のマーガレット・アトウッドの最新邦訳。
人類は、エリート科学者が住む<構内>と庶民が住む危険な<ヘーミン地>に分かれて暮らしている。少年時代を共に過ごしたジミーとクレイクは、一緒に見たポルノサイトで美しい少女オリクスをみつける。その姿は二人の記憶に強烈に焼きつく。やがて高校で理系の才能を開花させて<構内>の階層の頂点へとのぼりつめていくクレイク。反体制派の活動家だった母親を持ち、紙の本と古い言葉を愛する文系のジミーは<構内>とは距離を保って生きる。だが、運命の少女オリクスが再び二人をむすびつける。
遺伝子操作で生まれた生物が不気味だ。現代のロボット工学の分野で「不気味の谷」ということばがある。これは人間に似せたロボットは、本物の人間との差異が微細であればあるほど、不気味に感じられるという現象。八本足のタコみたいな宇宙人よりも、この本に登場するヒトもどきの方がずっと不気味に感じられる。日本語版の表紙にヒエロニムス・ボスの『快楽の園』を使ったのは絶妙のセンスだと思う。まさにこれは不気味の谷の小説だから。
カズオ・イシグロの『私を離さないで』や映画『ガタカ』のような世紀末的世界ファン必見。3部作の第1作であるとのこと。
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