核爆発災害―そのとき何が起こるのか
原子力発電所の最悪のシナリオを超えて、核爆弾爆発の最悪を研究した本。
著者は広島大学原爆放射線医科学研究所助教授を経て札幌医科大学教授となった被爆の専門家。9.11同時多発テロがきっかけで核テロ攻撃に対する被害のシミュレーションや、核爆発被害に対する防災・防護の研究に取り組んでいる。
広島で原爆が投下されたとき、直下にいても生き残って、ちゃんと長生きできた人がいる。ビキニ環礁での核実験を生き延びた住民がいる。被爆した第5福竜丸の乗組員たちのその後の健康状態は?。核爆発による被爆で生死を分けたのは何だったか。そのとき我々はどう行動したらよいのか。核爆発で放射能に汚染された都市はどうなってしまうのか。万が一の核爆発に対するガイドラインが書かれている。
永田町の上空600メートルで20キロトンの核爆弾が爆発すると、直後に直径220メートルの火球が都心上空に出現し、核爆発災害で東京都心は壊滅する。2キロ以内の建造物は99%が再利用不能なレベルに破壊される。品川や上野や池袋も39%の建築物が再利用不能の損傷を受ける。50万人が犠牲になる。負傷者数は300万人から700万人に及ぶと計算されている。多くのテレビ局は一瞬で無能化するが、都心から離れたフジテレビは生き残る可能性が強い。東京タワーが倒壊する可能性が高いから電波は届かないかもしれないそうだ(もうすぐスカイツリーはできますが...)。
核爆発が起きると猛烈な衝撃波、熱線(光)、初期核放射線、電磁パルス、残留核放射線という5つの危険が住民を襲う。多くの人間は瞬時に死亡するが、広島でも爆心地数100メートルで生き延びた人が結構いる。生き延びるには瞬時に伏せること、地下にいることが有効みたいだ。爆発の直下でさえ地下街(高層ビルの直下はだめ)と地下鉄路線は安全であることがわかっており、広島でも地下室にいて助かった人の報告が紹介されている。
衝撃波と熱線を回避したら次は核放射線を避けねばならない。車が横転していたら爆心地に近いのですぐに退避しなければならないが、建築物のガラスが割れていなければ爆心地5キロ以遠なのでとりあえず屋内退避すべき、など、具体的な防護態勢が解説されている。
放射線を浴びてしまった場合は、嘔吐と下痢が重症のサインとなるらしい。放射線を浴びて急性放射線障害を発症した生存者は、被災後2~10年後に白血病の発症リスク、5~10年後にその他の固形がん発症リスクがあるという。だが、全員が発症するわけでもない。実際、広島でもビキニ環礁でも第5福竜丸でも、被爆後に普通に長生きした人も多いのである。広島・長崎で2.5キロメートル圏内生存者での白血病発生率は0.18%だったという。懸念されがちな奇形など遺伝的障害の証拠はみつかっていない。
日本人は原爆被害を2度も被っているのに、現代の私たちは、被爆の被害のことをよく知らない。震災による原発事故によって、放射線被害に怯えているわけだが、微細なレベルでは絶望する必要はないみたいである。
「1000分の1シーベルトの全身被爆のリスクは、10万人の公衆がこの被爆を受けた場合、そのうち5人が将来致死がんを発症する確率になる。このリスクを他の種類のリスクと比べてみよう。タバコ50本の喫煙による将来の致死がんの発症や、自動車で5000キロメートル走行して交通事故で死亡する確率と、この線量のリスクが等しいと考えられている。毎日20本のタバコの喫煙を30年間続けると、22万本の喫煙となり、放射線換算で4.3シーベルトの半致死線量に相当する。」
むしろタバコ怖いなと...。
広島・長崎での原爆投下、チェルノブイリやスリーマイルの事故、米国やロシアの核実験による被害など、これまでの核爆発と放射線被害を幅広く検証しており、危機管理を再考する上で大変に勉強になる内容。
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