災害ユートピア―なぜそのとき特別な共同体が立ち上るのか
大爆発、大震災、大洪水、テロ。大災害が発生した直後には、必ず人々の助け合いのコミュニティが出現する。無償の愛で困っている人を助け、絶望している人を励ます。普段は眠っていた人々の創造性が発揮される。その特別なコミュニティのことを著者は災害ユートピアと呼ぶ。
サンフランシスコ大地震、ハリファックスの大爆発、ロンドン大空襲、メキシコシティ大地震、9.11同時多発テロ、ハリケーン・カトリーナ...。歴史的な大災害やテロの直後に生成された災害ユートピア事例を研究し、なぜ人々は地獄のような光景の中にユートピアを作りだせるのか。そして、なぜそうしたコミュニティが永続せず、つかの間のパラダイスに終わってしまうのかを探究する。
現実の大きな災害直後の市民の特徴は冷静沈着だ。パニックになる確率はゼロに近い。人々は混乱のさなかにも、冷静に救助活動を開始し、生存確率を高めるために柔軟に行動していた。人々がが下敷きになったがれきの山の一番近くにいるのは、救急隊員でも警察でもなく、一般市民なのだ。
ハリケーン・カトリーナの直後に、略奪やレイプは実際にはほとんど起きていなかった。火事場泥棒もいないのだ。そうしたデマを流したのはメディアであり、問題を引き起こしたのはそれに煽られて行動した為政者や警察、軍隊であった。警察はニュオーリンズから出る橋を監視して、逃げてくる黒人の市民を銃で威嚇し、危険な街に閉じ込め、犠牲者を増やした。
過去の災害を調べても、市民を暴徒とみなして射殺するとか、強制収容所のような場所に閉じ込めるなど、市民ではなく軍隊や警察官が犯罪を起こしていた例が多い。エリートたちは、一般の人たちがパニックになると思い込んでパニックに陥る。自分の身を守るために凶暴で野蛮な人間を排除しようとする。メディアも誤った報道でパニックを煽る。権力を持っている分、エリートのパニックは災害後の混乱に大きな悪影響を及ぼす。
人間は危機に際して、本質的に利他的であり、冷静に行動できるのに、エリートのパニックと、メディアの思い込み報道が、災害ユートピアの可能性を妨害していると著者は指摘している。
「災害は、世の中がどんなふうに変われるか───あの希望の力強さ、気前の良さ、あの結束の固さ───を浮き彫りにする。相互扶助がもともとわたしたちの中にある主義であり、市民社会が舞台の袖で出番を待つ何かであることを教えてくれる。」
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