競争の作法 いかに働き、投資するか
日本経済新聞の2010年度エコノミストが選ぶ経済図書ベスト1に選ばれた新書。
経済学者が、現代日本において適正な競争原理が果たす重要性を説いた本。
市場主義を再評価する。競争の行きつく先は悲惨な格差社会ではなく幸福な社会だと。
著者は「日本経済で不平等が深刻になったのは、競争原理が貫かれて生産の効率性が飛躍的に向上したからではない」という。「競争原理を貫いたから、平等原理に抵触した」のではなく、「競争原理を大きく踏み外したので、所得分配上の深刻な問題が生まれた」のだという。
「戦後最長の景気回復」やリーマンショックの影響、「二つの円安」など経済指標を分析して、失われた10年から現在までの日本経済の流れを説明する。そして、従来の国民経済計算(GDPなど)では幸福やこころの豊かさは測ることができないことも示す。そのうえで、今の日本では、本当に貧しい人たちは少数であり、多数は「豊かさ以上、幸せ未満」の状態に置かれているという。多くの人にとって格差社会は他人事の議論だというのである。
「21世紀の入口に立って格差社会論争が取り組んだ不平等とは、競争原理を実践するはるか手前のところで、少数に対して悲惨な貧困を押しつけた多数が安堵していた状態にすぎなかった。」
つまり中流以上のマジョリティが、既得権や制度に守られて、たるんでいることで、経済的に大きな損失につながっているということだ。生産性が高い集団の歪みを正して、公正な競争原理を導入すれば、経済は活性化する。また真摯な競争は真の人間性を育む機会となりえる。だからこそ、今、株主らしい株主、経営者らしい経営者、地主らしい地主が真剣勝負で議論する、真正面から競争に向き合っていくことが大切なのだ、というのが本書の主張。
目からうろこ的な指摘が幾つもあって、啓蒙される新書だった。
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