月と蟹

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・月と蟹
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鎌倉に近い海辺の町。孤独な少年 慎一と春也は放課後、秘密の潮だまりでヤドカリを生きたまま焼く儀式にはまっている。ヤドカミさまに願えばなんでも願い事がかなう。いつしか少年たちは、自ら創造した神に頼るようになっていた。

「お前、あんまし腹ん中で、妙なもん育てんなよ」と祖父は言うが、祖父自身が過去の不幸な事件の因縁にとらわれて生きていることに、慎一は気がついている。この作品の登場人物達は何かしら重いものを心に抱えている。

匿名で出される慎一への嫌がらせの手紙、友人が受けている家庭内暴力、独身の母に見え隠れする男の影、同級生の女子 鳴海との複雑な関係。浄化されない潮だまりのように、暗い情念が澱んで濃度を増し、不穏な何かを生み出そうとしていた。

少年少女の繊細な心理描写と、平穏な日常の中に育つ不穏を描くのが実にうまい作品。陰気な少年たちの遊びの儀式が、状況の進行とともに緊張感を増していって、焼き殺されるヤドカリのように破裂する終盤まで、飽きさせずに読ませる。緊迫するが猟奇的なオチではなくて、少年の心の成長を描く救いのある方向で終わるのが、私は高評価。

第144回直木賞受賞作。

・光媒の花
http://www.ringolab.com/note/daiya/2010/07/post-1255.html

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このページは、daiyaが2011年2月14日 23:59に書いたブログ記事です。

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