遭難フリーター

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・遭難フリーター
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23歳で借金600万円を抱えた著者が、派遣社員として埼玉のキヤノンの工場で働く日々を綴ったノンフィクション。帯には「ボロ雑巾みたいな派遣の日常」とある。派遣社員の現状を伝える生々しい資料として、よく伝わってくる作品である。

昼休み、工場の食堂で「俺」は、持参したご飯とさんまのかば焼きの缶詰に、テーブルにある無料のたくあんでひとり昼食をとる。米と缶詰は実家から送ってもらったものだから実質0円なのだ。隣に正社員の制服の男女が座ってきて、普通の食堂の定食を食べながら談笑する。「俺」は猛烈な劣等感を感じて退散する。

「一緒にご飯を食べる友達が欲しい。豪勢な昼飯を食いたい。誰にでも誇れる仕事がしたい。簡素な欲望のようで、これは俺にとって遠い憧憬だ。 急いでご飯を食べ終えた。テーブルには缶詰の汁が飛び散っていた。それを手で拭い、食堂を出て、トイレで手を洗った。鏡に映る自分の顔はやっぱり陰気で好きじゃない。」

毎日の果てしない単純労働を身を粉にしてこなしても、低い給与で手元にお金は残らない。休日も日雇いアルバイトを探して肉体労働に励む。やる気がなくてだらしなく、まともなコミュニケーションがとれない同僚たち。ワケありの人も多い。会話にでるのは下ネタかギャンブルの話ばかり。たまにまともな人が入ってきても、身分が安定しない派遣だから、結局、つかのまの友情に終わってしまう。彼女をつくる余裕などどこにもない。

遭難フリーターの現実をありのままに描いている。死なないために生きているような出口の見えない心情の吐露。お金がまったくなくて駅を出られず「明日仕事が終わったら払いに来ます」と告げて支払い猶予書を発行してもらうみじめなシーン。プライベートのない寮生活で、社員にオナニーの現場をみつかって気まずい思いをするシーンまで赤裸々に綴っている。

「俺」は東北芸術工科大学映像コース卒業で、後日、派遣社員時代の生活を映像に撮りためて映画『遭難フリーター』を制作した。山形国際ドキュメンタリー映画祭2007で招待上映された。豊かな国の意外な側面を観たとしてアジアでも話題になったようだ。現在は介護の仕事をしながら表現活動を続けているそうだ。

私が希望に感じたのは、まえがき、あとがきで明かされたこの著者の現状である。厳しい状況はあるが、個人の才覚と努力次第で這いあがれる可能性があるということだ。この著者の場合は、本を書く文章力と映像表現の技術を持っていたからできたこと。学生時代に表現能力をよく磨いておくことが、就職難の時代のサバイバル能力につながるのではないかと思った。物を書いたり、作品をつくること自体が、自信やプライドにもつながるわけだし。

・映画『遭難フリーター』のサイト
http://www.sounan.info/

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このページは、daiyaが2011年2月 8日 23:59に書いたブログ記事です。

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