猫鳴り
猫のイメージに満ちた3部構成の小説。でも決して猫好きの猫賛歌というわけではない。結構突き放している。「家のまわりのどこかで、ミーミーとひっきりなしに仔猫が鳴いている。ああ、いやだなと伸枝は眉をひそめた。」なんて始まりをするのだから。主役の猫も可愛げがないデブ猫。
一般に、陽で従順な犬に対して、陰で自立した猫というイメージがある。化け猫はいるが化け犬はいないだろうみたいなのもある。猫の方が孤独な存在であり、冥界や死に近い。この作品の深みはそうした猫の背負う負のイメージに由来する。
飼い主になる夫婦との出会いが語られる第一部では、流産した赤ん坊のイメージを仔猫のモンが引き受ける。これは無邪気な犬では難しかったろう。はかなげで、ちょっと恨みがましい感じの仔猫がちょうどいいのだ。そして年月が経過した第二部では少年と別の仔猫の別れを描く。モンもちょっと出てくる。そして第3部は20年連れ添った老猫モンの最期を看取る夫婦の物語。ここでも猫と死のイメージが重なりあう。
第3部で看取るシーンは猫好きでなくても、ペットの死を体験したことがある人には相当につらい。しかし、命の尊厳や、感謝の気持ちを、動物から教えられることって確かにあるなとしみじみ思う名シーンだった。子供が小さい頃に犬や猫を飼うと、一緒に育ち、多感な少年少女の頃に死ぬ。最後に命の大切さという教育を置いていくのだと言った人がいたが、確かにそういう役割ってあるなあと思う。
犬や猫。愛玩動物っていう言い方はよくないよな、彼らは立派に伴侶だよなと主張したくなる読後感の作品なのである。
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