権力の館を歩く
現代の権力者の住まいを訪ね歩き、建築と政治の相関関係を暴くノンフィクション。
西園寺公望の坐漁荘、近衛文麿の荻外荘に始まり、吉田茂の目黒公邸と大磯御殿、鳩山一郎の音羽御殿、岸信介の御殿場邸、池田勇人の信濃町邸、佐藤栄作の鎌倉別邸、田中角栄の目白御殿、三木武夫の南平台邸、福田赳夫の野沢邸、大平正芳の瀬田邸、中曽根康弘の日の出山荘、竹下登の代沢邸、宮沢喜一の軽井沢別邸など大物首相たちの屋敷の場所と建築の様子が、往時の写真とともに明らかにされる。もちろんほとんどが大豪邸だ。
「より具体的かつ視覚的にいえば、建築がそこで営まれる政治を規定しているのではないか。外面的には建築が建つ"場"の状況によって、内面的には建築の中の"配室"の状況や、さらには部屋内の机や椅子の"配置"状況によって、政治決定のあり方が決まってくる。もちろんかつての経済決定論と同様、すべてが建築によってきまるとする建築決定論を主張するものではない。」
日本の針路を決める重大な意思決定が、これらの屋敷の中で行われた。来客との会談、パーティー、記者対応など私宅でありながら、実質公宅でもあるのが、政治家の屋敷なのだった。著者は権力者の館に「接客部門」「サービス部門」「住居部門」の3つの共通要素を見出し、それらがどのように配置されているかを分析している。
池田勇人は親近感で訪問客をおおまかに「茶の間組」「応接組」に分けて対応した。大平正芳は「書斎組」「居間組」「第一応接間組」「第二応接間組」の4つに目的と機能で細かく分けた。権力者の住まいには主人の性格がよくあらあれる。この部屋の振り分け次第では違った結論が出た意思決定もあるかもしれない。
西園寺公望の坐漁荘の二階は、障子を開け放つと絶景、広く海が見渡せる。しかし、下にたむろする新聞記者にはそこに誰がいるのか見えない。高い壁や樹木に囲まれた屋敷が多い。情報の非対称性と閉じつつ開くような構造が権力の館の特徴だと思った。
首相官邸や衆議院、最高裁判所、警視庁、日本銀行本店などの権力機構の館や、政党本部、砂防会館、宏池会事務所などの政党権力の館も分析の対象となっているが、やはり主人の思想が現れて面白いのは断然、第一部の権力者の館だった。
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 権力の館を歩く
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/3099