あんじゅう―三島屋変調百物語事続
『おそろし』の続編。
江戸の神田にある袋物屋の三島屋では、主人伊兵衛の趣味で、客を招いて不思議な話を集める百物語が行われていた。その聞き取り役をまかされた姪のおちかは、一度に一人ずつ、怪異の体験者と向き合って、胸の内に封じ込めてきた因縁話を、丁寧に聞き取っていく。
宮部みゆきのうまさと安定感が光る。5つの話は非常に緻密に構成されている。どの話も客の口から怪談がはじまるまでが長い。いきなりお化けが出てしまったらだめなのだ。恨みつらみが積み重なって、人間の心の闇が濃くなって、やがて魑魅魍魎を生み出してく過程があってこその怪異にリアリティがでてくる。
そしてかならず救いのあるエンディングに落ち着くのがよいところ。人間って怖いなあと思うと同時に、人間っていいなあと思わせる部分を必ずつくってある。心温まる大江戸百物語集である。怪談を話に来た客や、話の中にでてきた人物が、レギュラーの登場人物として加わっていくので、読者は読むたびに三島屋の世界観にどっぷりはまっていく。
出てくるお化け、妖怪のテイストとしては杉浦日向子の『百物語』に似ているが、もっと人情派。
それにしてもこの調子で百話までとなると、あと何十年かかるのだろう。
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