人間小唄
緻密なストーリーで読ませるか、文体で酔わせるか、作家の戦略は大きく2種類あるが、パンクロック出身の町田康は、ひたすらにリアルタイムの歌声で酔わせる文体派の作家だと思う。もはやストーリーやプロットなんてなんだっていいとさえ思わせる説得力をもった声を持っている。
特異な言語感覚で操られる町田節がこの作品でも炸裂している。
「情熱だよ、やむにやまれぬ情熱だよ」。
主人公は、愛読していた作家に言いがかりをつけて拉致監禁する。解放されたければ「短歌を作る」「ラーメンと餃子の店を開店し人気店にする」「暗殺」のどれかをちゃんと実行しろと要求する。作家は仕方がないので無難な順番で実行していくが、成果にいちゃもんをつけられて、なかなか帰してもらえない。
執着的な言いがかりやいちゃもんだけでできているような小説だ。徹頭徹尾、木を見て森を見ない。神は細部に宿るのが楽しい。その場しのぎの妄想妄念でドライブしていって、全体の辻褄合わせなんでものはどうでもよくなる。今読んでいる行の、前後2,3ページで語っていることがすべてなのだ。歌の1番と3番で実は筋が通っていなくても、メロディが良ければ名曲といっていいじゃないか、みたいな。
話の内容が支離滅裂の荒唐無稽でよくわからないのだけれど、聞く体験が心地よくて、この人の話をずっと聞いていたいなと思わせる、そんな話し手が町田康というすごい作家である。『宿屋めぐり』『告白』みたいな長編代表作には及ばないが、比較的短く、相変わらずの町田節を再確認したい人におすすめ。
・俺、南進して。
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/03/post-953.html
・東京人生SINCE1962
http://www.ringolab.com/note/daiya/2007/07/since1962.html
・宿屋めぐり
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/09/post-828.html
・告白
http://www.ringolab.com/note/daiya/2006/10/post-474.html
・フォトグラフール - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-745.html
・土間の四十八滝 - 情報考学 Passion For The Future
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/04/post-733.html
トラックバック(0)
このブログ記事を参照しているブログ一覧: 人間小唄
このブログ記事に対するトラックバックURL: http://www.ringolab.com/mt/mt-tb.cgi/3073