21世紀の科学技術イノベーション―日本の進むべき道
20世紀前半を代表する経済学者ケインズは財政政策と金融政策で不況を打破できると考えた。同じころ孤高の経済学者シュンペーターは新結合による新しい価値の創出行為=「イノベーション」こそ決め手になると主張した。
これはJST研究開発戦略センターが「科学的知識を用いて新技術・新着想を創造し、経済的価値を増大させ、社会的要請を満足させるプロセス」を科学技術イノベーションと定義し、科学技術イノベーションの3つのポイントを
1 (科学技術の)パラダイムシフトを起こすもの
2 社会システムに大きな変化をもたらすもの
3 経済的・社会的な価値(国富)を大きく増大させるもの
と整理したうえで、日本におけるその可能性を研究した本である。
シリコンバレーのようなイノベーション・エコシステムも検討課題のひとつである。米国を調べると、実は米国にはシリコンコースト、シリコンデザート、シリコンプレーン、シリコンヒルズなど、いくつも第2、第3のシリコンバレーを指向したエコシステムが存在しているという。しかしこれらの地域は本家に迫る勢いを持っていないのが現実のようだ。米国内でさえそうなのだから、日本が真似をしてもうまくはいかないわけである。
「しかし、生態系はその地域、風土、自然に深く根ざしており、その系全体を他の場所に移植すればそれはたちまち死滅し、枯れてしまうというように、米国のイノベーション・エコシステムをそのまま日本に移植しても役に立たないことは明白である。」
著者らはシリコンバレーの模倣ではなくて日本独自のイノベーション・エコシステムを模索するべきだという。ノキアとLINUXを産んだイノベーション国家フィンランドの分析もある。
そして国内の状況を俯瞰したうえで、期待できる地域として、
1 浜松
本田技研工業、ヤマハ、河合楽器、豊田自動織機製作所、オートバイのスズキなどの発祥の地
2 福岡
シリコンシーベルト(先端システムLSI開発拠点構想)として高評価
を挙げている。
そして科学技術イノベーションが期待できる分野としては、
1 IRT技術 情報技術+ロボット技術
2 太陽光利用技術
3 合成生物学
の3つを挙げている。それぞれの分野での日本の優位性や展望がまとめらている。
前半のイノベーション概念の整理部分はとてもよくまとめられているし、続く日本の現状の把握は情報としては有益だ。しかし、後半の各論は日本の科学技術イノベーションの取り組みの中から、現状において、いくらかうまくいっている部分を抽出してみましたという感じがある。成功例が小粒な気がする。
事前に正解がわからない世紀の問題であるから、本に確固とした結論を求めても無理である。具体的にこの道を行くということは、こうした分析資料を読んだ上で、傍観者ではない読者が自ら考えて、リスクを負って行動した結果、実現されるということなのだろう。
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