切れた鎖
「不意の償い」は、妻と初エッチしている間に両親を火事で亡くし、セックスと死がわかちがたく結びついてしまった男の話。
「蛹」は知性を持ったカブト虫の蛹の話。なぜかなかなか地上に出られず悶々とする。川端康成文学賞受賞作品。
表題作「切れた鎖」は、隣にある大陸系の教会を憎悪しながら何十年も暮らす富裕な一族の話。三島由紀夫賞受賞作品。
断ち切れないものを背負いながら、ずっと憎悪して生きていくものたちの物語。
3作品とも妄想のイメージが膨らんでいっていつのまにか現実を離れていく文体が見事。
人間の内にこもった怨念をおもいっきり増幅してビジュアル化していて不気味。たいしてなにも起きないのだが、不吉で不穏な空気を描くのもうまい。ストーリー的にはホラー映画ではないが、日本的なホラー映画にできるのでは。
個人的に一番良かったのは「蛹」。井伏鱒二の「山椒魚」のようなひきこもり想像力の傑作。社会的なメッセージを読みとることもできそうだが、一回目はあまり深く考えずにどっぷり奇想の世界観に浸るのがよさそう。
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