嘘つき王国の豚姫
岩井志摩子が現代を舞台に凄いのを書いている。また負の情念に圧倒された。
「「このままじゃあ、殺される」
いつからか私はそんな強迫観念に囚われ、囚われているのに追われ続け、追われ続けているのに逃げないでいた。逃げられないのではなく、逃げない。もはや強迫観念は私にとって、安らげる揺りかごや寝床ですらあった。強迫観念、なんて言葉も概念も知らない頃から。
私がいじめられっ子になったのは、幼稚園児の頃。つまり、物心ついた頃、大人になって過去を振り返ったとき、一番最初の記憶や最も古い思い出がある頃。私にとっては、いじめられていた記憶が一番最初の記憶。いじめられっ子だった自分が、最も古い思い出。自分の原点は、いじめられっ子。世界の、被害者。」
救いようのない転落人生の物語。弱い自分に対して嘘を重ねてやり過ごす主人公。残虐ないじめや虐待を経験してねじまがった彼女はぶくぶくに太って、容姿も醜い豚女になる。実家2階の部屋=王国に閉じこもり、自分は本当は可愛くてデキル子、自分は悪くない、仕方がないと言って、言い訳しながら生きていく。そしてレイプ、家出、売春、悲惨な末路...。こんな風にだけはなりたくないという最悪の女の半生を描いている。
転落人生シミュレーターみたいな小説である。途中ちょっと浮き上がることもあるのだけれど、それはさらなる深みへの転落の始まりだったりして、これでもかとばかりに苛められる豚姫のりか。でも見栄っ張りで性格が悪いので誰にも同情もされない。だから一層、溜め込んだルサンチマンが歪んでいく。
誰しもどこかに「本当の自分はもっとできる人間、自分は悪くない」という豚姫的根性は持っているわけで、ありえたかもしれない自分の転落した姿を、怖いものみたさで読む。止められない止まらない。そんな人間性ホラーの悪趣味小説として傑作である。
・魔羅節
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/10/post-1082.html
・ぼっけえ、きょうてえ
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1066.html
・瞽女の啼く家
http://www.ringolab.com/note/daiya/2009/09/post-1061.html
・べっぴんじごく
http://www.ringolab.com/note/daiya/2008/10/post-843.html
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