すぐわかる画家別幻想美術の見かた
「現実にないものを内なる眼で見て、思い浮かべる人間の想像力、つまり"幻想"から生まれた美術」
自分が興味を持つ絵画の多くは幻想美術と呼ばれるジャンルだとわかったのだが、幻想美術というのはどういう美術なのか、どういう作家がいるのかという全体像が、このカタログ的な解説本でやっと把握できた。
近代以前から現代まで62人の画家による幻想絵画をカラー写真で紹介していく。
15世紀のヒエロニムス・ボス、アルブレヒト・デューラーに始まって、20世紀のキリコ、ダリ、マグリットまでを代表作をひとつ選んで解説を加えていく。美術史的には有名な作家も多い。歴史的背景や評価、周辺キーワードなどで立体的に作品が理解できる。
絵画の主題となるのは、夢、幻覚、無意識、眠り、恍惚、神秘、不可思議、秘密、謎、ビジョン、メタモルフォーシス、宇宙、無限・永遠、夜、闇と光、廃墟、迷宮、死、妖精、童話的世界、楽園天国、地獄など。現実と非現実の中間世界。「熱に浮かされたような」「狐につままれたような」瞬間を絵にしている。
しかし、完全に表現者があちらの世界にいってしまっているアウトサイダーアートとはかなり異なる。見る者を幻想に惑わすための設計がなされているなあと感じることが多い。神秘であると同時に知的な芸術なのだ。
「幻想美術の巨匠たちは、本来なら大自然の秩序、ヒエラルキーの中に定位置を占めているこれらのイメージを解放、解体し、我々には想像もつかないような形で組み合わせ、合成したに過ぎない。彼らが創造したかに見える不可視の超現実、超自然、つまり幻想の世界も、常識や理性、偏見にとらわれない自由かつ柔軟な感性と、豊かな想像力の産物であった。」
鑑賞用としても知識ガイド本として非常によくできた本だと思う。
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