俺俺
自分ほどわからないものはないよね、っていうアイディティティ融解パニック小説。
他人の携帯電話を手に入れたなりゆきで俺俺詐欺に手を染めた俺は、そこから俺がいっぱいいる俺俺の異世界へと引き込まれていく。我思うゆえに我ありというデカルトの言葉のように、自分の存在だけは疑わないのが人間の常だ。だが俺が複数存在しているというのもかなり困る。自我が崩壊するんじゃなくて自我が融合してしまうという、想像したこともなかった事態に陥って、俺は大いに焦る。
俺と同じ感性の俺は最高の仲間だが、自分と同じ思考をする人間が敵だったら最高に手ごわい。相手の次の手が読めそうで読めない。自分のことって、よくわかっているようで、わからないのだ。俺が増殖することで自分の持つ不条理性が果てしなく増幅されていく。
サスペンス小説なのかと思って読み始めたら、SF小説であり、パニックであり、ある種のホラーであり、パロディであり、究極の観念論なのであった。この本を読むまで、俺ということについて、ここまで突き詰めて具体的且つ網羅的に考えたことがなかった気がする。
娯楽小説に分類されそうだが根底にかなり深い哲学を読み取ることもできる中身の濃い作品である。就活なんかで"自分探し"をしている人はぜひ読むといい。自分を持たない自分が、自分を持つ自分を、自分の中に探すなんて、矛盾以外の何物でもないってわかるから。
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