初夜
喜劇のような悲劇、あるいは、悲劇のような喜劇。イアン。マーキュアン作。
「彼らは若く、教育もあったが、ふたりともこれについては、つまり新婚初夜については、なんの心得もなく、彼らが生きたこの時代には、セックスの悩みについて話し合うことなど不可能だった。いつの時代でも、それは簡単なことではないけれど、彼らはジョージアン様式のホテルの二階の小さな居間で、夕食のテーブルに着いたところだった。隣の部屋には、ひらいたドア越しに四柱式のベッドが見える。幅はやや狭めだが、ベッドカバーは純白で、しわひとつなくピンと張り、人の手で整えたとは思えないくらいだった。」
という出だしから始まる。
1962年、まだ保守の空気が濃厚だった英国で、ある夫婦の結婚初夜の事件について、ゆっくりと語られて、それだけで一冊が終わる。歴史学者志望の夫エドワードとバイオリニストの妻フローレンス。新潮クレストなので終始、上品で優美さは失わないのだけれど、あまりに深刻に童貞と処女の悩みが語られるものだから、吹き出しそうになる。
初体験であるがゆえの焦りや過剰反応のもたらす滑稽さ。それが二人の人生に致命的な結果をもたらしてしまう。若いときの深刻な決断って性に限らず、往々にして、はたから見たら滑稽なのだけれど、それが分かる頃にはもう若くない。青春のままならなさを描いた作品ともいえるわけですが。
純文学×恋愛×官能×喜劇×悲劇×歴史×... ユニークな作風が強く印象に残って、面白かった。ストレートじゃない独特な恋愛小説を読みたい人におすすめ。読みやすい。
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