通話
「『通話』―スペインに亡命中のアルゼンチン人作家と"僕"の奇妙な友情を描く『センシニ』、第二次世界大戦を生き延びた売れないフランス人作家の物語『アンリ・シモン・ルプランス』ほか3編。『刑事たち』―メキシコ市の公園のベンチからこの世を凝視する男の思い出を描く『芋虫』、1973年のチリ・クーデターに関わった二人組の会話から成る『刑事たち』ほか3編。『アン・ムーアの人生』―病床から人生最良の日々を振り返るポルノ女優の告白『ジョアンナ・シルヴェストリ』、ヒッピー世代に生まれたあるアメリカ人女性の半生を綴る『アン・ムーアの人生』ほか2編。 」
ラテン・アメリカの知る人ぞ知る小説家ロベルト・ボラーニョの短編集。
ボラーニョという作家を知りたくて読んだが読んだ後の方が、果たしてどういう作家だったのかわからなくなった。作風がバリエーションに富んでいて、どれも濃密。「ウディ・アレンとタランティーノとボルヘスとロートレアモンを合わせたような奇才」と評されたいたそうだが異能の複合体である。
ボラーニョは1949年にチリのサンティアゴで生まれて、メキシコへ移住、その後エルサルバドル、フランス、スペインなどを放浪して過ごした後、1984年小説家デビュー。90年代後半になって文学賞をいくつか受賞して、作家として注目を集めたが、2003年に50歳の若さで亡くなった。
この短編集は作風が雑多な印象があるが、敢えて言えば常にマイノリティの側に立った描き方をするのが特徴だ。無名の売れない作家や迫害される亡命者など、主人公たちはメジャーに対するマイナーの視点ででてくる。だが、彼らは不遇や権力に抵抗するというわけでもなくて、境遇を受け入れたうえで、そこに生きる意味を見出そうとする。マイノリティのしたたかな生きざまの文学である。
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