サラリーマン漫画の戦後史
『課長島耕作』『サラリーマン金太郎』『釣りバカ日誌』『かりあげクン』『宮本から君へ』『ボーイズ・オン・ザ・ラン』『働きマン』『ぼく、オタリーマン。』『特命係長只野仁』......。時代を写す鏡としてのサラリーマン漫画の変遷が作品の絵も交えて丁寧に語られている。漫画好きが頭の中の知識を整理し文化史に昇華できる本だ。
著者はサラリーマン漫画史における最も重要な作品として『課長島耕作』(弘兼憲史)シリーズが挙げられている。バブルとその崩壊の時代を人気を保ったまま、部長、取締役、専務、そして社長へと出世してきた。
課長島耕作の成立について、1950年代から60年代に人気作家だった源氏鶏太のサラリーマン小説に源流があると著者は指摘する。高度経済成長の日本。終身雇用、年功序列の安定した組織の中で、人柄のよい主人公が、悪徳社員と敵対して、いろいろあるが人柄力で乗り切って、最後は勝利するという勧善懲悪的な物語。その「源氏の血」を受け継いだのが島耕作だったのだという。
そしてクールにサラリーマン生活を謳歌する島耕作に対して、熱く感情的に生きる『宮本から君へ』や『サラリーマン金太郎』など従来の安定したサラリーマンの枠組みに縛られない作品が登場する。バブルの崩壊と不況の長期化、働き方の多様化で、時代の最大公約数としてのサラリーマンという前提が崩れてしまうと、『働きマン』『ぼく、オタリーマン。』のような多様な生き方を肯定する作品も広がっていく。時代の流れに位置付けて見せられると、サラリーマン漫画は、まさに日本の時代の鏡になっていることが実感できる。
正社員比率が下がり続け、その正社員でさえ長期展望が見えなくなっている今、サラリーマン漫画は、これまでのように幅広い層の共感を集めることが難しくなってしまっているようだ。紅白歌合戦の視聴率と典型的サラリーマンの率って同じような下降線をたどってきたのかもしれない。かといって、フリーや起業がボリュームゾーンになるとも思えない。サラリーマン漫画も当面はバリエーション豊かに混迷の時代に突入するのだろうか。読者としてはいろいろな路線が読めて面白いのだけれど...。
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