乙女の密告
最新の芥川賞受賞作。
こんなに娯楽性たっぷりの芥川賞って珍しい。面白い。
京都にある外国語大学のドイツ語の授業。バッハマン教授はバラを口にくわえ人形を抱いて通勤するエキセントリックなドイツ人。教材が『アンネの日記』なので受講する学生は純真な乙女ばかり。
乙女たちはスピーチコンテストに向けて、『アンネの日記』の「1944年4月9日、日曜日の夜」をドイツ語で暗唱するという難しい課題に必死に取り組んでいる。教授は「乙女の皆さん、血を吐いてください」と努力と根性で死ぬ気で頑張れと檄を飛ばす。
乙女たちは「すみれ組」「黒ばら組」の2大派閥に分かれている。主人公のみか子はすみれ組だが、黒ばら組リーダーの麗子様(スピーチの女王で、「おほほほほ」と高笑いする)に密かに憧れている。
女の園は噂の園であり、囁きや密告が人間関係に危機的な影響を及ぼす微妙な緊張関係にあったのだが、コンテストを前に乙女たちの平和を脅かす、ある「黒い噂」が広まっていく。
表面的にはコミカルな表現の連続でテンポよく展開するので娯楽性が高い小説だ。同時に、ユダヤ人アンネ・フランクが生きた疑心暗鬼の隠れ家生活と、現代の乙女たちの閉鎖社会の心理が、ひねった形で重ねられており、悲劇と喜劇が同居する、実に独特な、わけのわからない深さが魅力である。
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