トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか
「上質さと手軽さ、どちらも秀逸ではない商品やサービスは、「不毛地帯」に追いやられかねない。消費者にどっちつかずの経験しか提供できないのだ。不毛地帯には冷めた空気が充満している。そこそこの質の商品やサービスは誰の心をも揺り動かさず、何となく手に入りやすいというにすぎない。<中略>商品やサービスは、テクノロジーの発展に見合った改善がなされないかぎり、広がりゆく不毛地帯に呑み込まれる運命にあるだろう。」
グローバル化と情報化の進展によってプロダクトのライフサイクルはかつてよりも短くなっている。ヒット商品もほうっておくとすぐに不毛地帯に追いやられて、売れなくなる。クロックスのシューズ、スターバックスのコーヒー、COACHのバッグなどが、大成功して大失敗した事例として挙げられている。こうしたブランドが陳腐化したのと同じように、iPhoneも放っておけば危うい、とも。
上質さか手軽さか。ポジショニングの戦略で重要なのは、どちらかを潔く捨てることだというのが著者の結論である。上質でかつ手軽という、いいとこどりもまた失敗の原因になるというのだ。たとえばCOACHやティファニーが一時目指した上質で手軽なブランドをこう批判する。
「上質か手軽かの二者択一というコンセプトが示すように、「マス・ラグジュアリー」は砂上の楼閣にすぎない。マスとは手軽であり、ラグジュアリーとは上質である。この二つは共存できない。ラグジュアリーを謳ってはいても、誰もが手にできるならそれはありきたりな商品である。「マス・ラグジュアリー」とはじつのところ、一般の人々の期待水準を押し上げ、身の回りの商品やサービスの質的向上をもたらすものだ。こうなると、その成り立ちからしてもはやラグジュアリーの名には値しない。」
トレードオフを見切ること、陳腐化に対して次の手を打つこと、上質さとは経験、オーラ、個性の足し算で決まること。現代のグローバル市場でサバイブするための、ポジショニング戦略が簡潔にまとめられている。
本書にでてくる多数の米国のケースが参考になった。日本ではあまり知られていないブランド、商品が多数出てくるのだ。たとえば革新的な本屋のタッタードカバー、クレイマーブックス、ザ・ブックストール。1億台近く売れたという携帯Motorola RAZR。ラスベガスのホテル王スティーブ・ウィンなど。ちなみに著者によると、日本ではまだ先端的製品と思われているアマゾンの電子書籍デバイスのキンドルは終わっているらしい。何度もダメだししている。
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